【元教師】九九が覚えられない!苦手意識がある子どもの原因と自然と身に付く習得方法を徹底解説!

教え方のコツ

2年生の算数で最も重要な学習。それは九九です。九九が言えることによって得られる恩恵は計り知れません。

3年生の「わり算」「かけ算筆算」、4年生の「わり算筆算」へとつながり、5・6年生では全ての単元で、習得していることが当たり前のものとして、フルに使っていくことは想像できると思います。

お母さん、お父さん方の中には、「九九なんて当たり前に覚えてたからなぁ・・・。今更覚え方と言われても思い出せないなぁ・・・。」という方も多いのではないでしょうか。

九九は大抵の子どもは時間をかければ覚えることができます。しかし、筆者の経験上、1クラスの中に、九九を覚えるために、必要以上の時間と労力を要する子どもが1~2割います。そのような子どもは、九九の習得が曖昧、もしくは自信がなく、3年生以降の算数でどんどんつまずきが増えていく傾向にあります。

この記事では、「小学校教師歴10年」「年間を通したクラスの算数テストの平均が90点以上」といった経験をもつ筆者が、どのような子どもにも対応できる九九の覚え方と、苦手意識の原因を解説していきます。

九九に苦手意識をもつ原因

筆者は、九九が入りにくい子どもがいる原因は、次の3つだと考えています。「数の概念が定着していない」「普段使わない言い回しがある」「音と数字がリンクしない」です。順々に説明します。

数の概念が定着していない

最も喫緊性が高い要因は「数の概念の定着」です。りんご1個のことを「1」と表す、この「量感」と「数字」が結びついていないのです。「そんなバカな。」と思う人がいるかもしれませんが、一定数、このような概念が分からない子どもがいます。

1年生の教科書は、まずは、絵の中から「ちょうちょが何匹いるか。」「アヒルは何匹いるか。」といった、声に出して数えることから始まります。そこから一対一対応といった数の数え方を習ったり、それを数字に置き換えるという工程を経て、数字が持つ数量を理解していったりすのです。

量感が育っていないと、計算のおおよその検討をつけることができません。また、文章題では、たし算になるのか、引き算なのかを判断できない可能性が生じてきます。

この量感を大切にしているからこそ、1年生の教科書は毎回のようにイラストで出てきます。イラストという「具体物」を、ブロックという「半具体物」に置き換え、最後は「数字」で式に起こしていく流れになっているのです。

このステップをいい加減にし、子どもの特性に応じて適切に教えなければ、土台が安定しないままとなります。学習したことが、正しく積み上がっていかない構造を作り出してしまうのです。

普段使わない言い回しがある

九九には独特な言い回しがあります。「2×2=4」を九九以外で読むときは「2かける2は4」となります。一方で九九では「ににんがし」です。改めて考えると、なぜこのような特殊な言い方になっているのかと、疑問を抱いてしまいます。

「2」を「に」と読むことは、1年生の間に地道に地道に積み重ねて習得しています。算数という勉強では「2」は「に」であるという普遍的事実であるはずの情報が、「2」を「にん」と読む九九の特殊な読み方によって打ち砕かれるのです。

これは、発達に凸凹をもつ一部の子どもにとっては大変な負荷です。発達に凸凹をもつ子どもたちは、音素(モーラ)という日本語の音を聞き取ることが得意ではない子が一定数います。日本語の中に一部聞き取りづらい音が個々によって存在することもあります。彼ら彼女らは、「キャベツ」を「シャベツ」と認知し、間違って覚えてしまうといったことが往々に起こるのです。「カ行」と「サ行」のように、混同しやすい音というものがあります。

五十音図さえ、正しく把握し切れていないのに、新たな九九専用の読み方を覚えなければならないとくれば、たまったものではありません。加えて、発達に凸凹をもつ子どもは、ワーキングメモリが低い傾向があります。耳で聞き取った情報を長く保持できないが故に、いつまで経っても、何度も聞いても、九九の音声が記憶の中に定着しないという事態が発生します。

音と数字がリンクしていない

では、がんばってなんとか九九を覚えたとしましょう。しかし、それは本当に意味を理解して覚えているのでしょうか。

「2いちが2、2にんが4、2さんが6・・・」となんとか覚えて口で言えるようになったとしても、「2かける2は何ですか。」と聞かれ、瞬時に「2かける2は、2にんが4のことだ。」と考えることができるでしょうか。

九九を意味を待たないただの音声としてだけ覚えた子どもは、九九以外の聞かれ方をすると、それだけで答えられなくなってしまう場合があります。「2いちが2」というのは、「2×1=2」のことを示し、「2かける1は2」と読む、内容の関連性を押さえておかなければいけません。

そのような意味をきちんと理解していれば、「2の段は答えが2ずつ増えていく」といった規則性を理解することができます。そうなれば、多少九九を忘れてしまったとしても、規則と照らし合わせ、答えを導き出すことが可能なはずです。

どのような子どもにも効果がある九九の教え方

九九を覚えるためには、2年生の授業で九九が始まってからではゆとりがありません。それ以前からの下準備を整えておくことが、1番子どもに負担なく、九九を覚えるさせることにつながります。

そして、いざ本格的に九九を覚える段階になったら、五感に刺激を与えたり、脳の記憶の性質を理解したアプローチをしたり、様々な視点を取り入れた学習をしていくことが効果的です。

ここでは、「100玉そろばん」「フラッシュカード」「暗唱」「歌」「トレーニング」という5項目に絞って解説していきます。

100玉そろばん

これは、学校の授業であれば、素晴らしい効果を発揮できる教材です。教師が、この100玉そろばんを使う場合は、教授用を使うのですが、子ども用を使ってご家庭で行うことも十分可能です。

100玉そろばんは、1年生のときから毎日、授業の冒頭に行うのがベストです。1年後には圧倒的な基礎学力を付けることができます。100玉そろばんは、様々なパターンがあります。例えば1年生で行うとしたら、以下のような流れとなります。

順唱・・・1~20まで順に数える

逆唱・・・20~0まで逆順に数える

2とび・・・2、4、6と2つずつ増やして20まで数える

5とび・・・5、10、15と5ずつ増やして60まで数える(時計が60だから)

10とび・・・10、20、30と数えて100まで数える

10の階段・・・1~10を階段状に並べ、合成へつなげる

10の合成・・・1と9で10のようにいくつといくつを合わせるかを唱える

10の分解・・・10は1と9のように10はいくつといくつに分かれるかを唱える

たし算・・・たし算の問題をランダムに出題する

繰り上がりのあるたし算・・・8たす5の場合、「8はあと2で10」「5を2と3にわける」「8たす2は10」「10と3で13」のように玉を操作しながら行う

ひき算・・・ひき算の問題をランダムに出題する

繰り下がりのあるひき算・・・11ひく3の場合、「11は10と1」「10ひく3は7」「7と1は8」のように玉を操作しながら行う

100とび・・・100玉そろばんを傾けて一気に100移動させる。右、左、と傾ける度に、100、200、300と1000まで数えさせる

このような活動を、4月から少しずつ増やしていき、授業の始め5分~10分で行い続けます。この100玉そろばんの素晴らしいところは、いつでも視覚で情報が入ってくるところです。

そして、クラス全員で唱えているので、数の概念が分からない子どもも、音をまず覚えていくことができます。さらに、1年間という長期的なスパンで繰り返していくことにより、そろばんの玉1個分を「いち」と言い、それが数字の「1」なのだということを理解していくのです。

加えて、1年生の最も重要な幹となる「10の合成」と「10の分解」を視覚・聴覚を使って完璧に覚えてしまえるところが、100玉そろばんが真価を発揮するところです。

上記のメニューを当たり前のようにこなすことができるようになれば、繰り上がりや繰り下がりも習熟します。加えて、2とび、5とびなどのかけ算につながる活動が入っているので、スムーズに九九に入ることができます。

これだけの下地を整えた状態で、2年生の5月あたりから、100玉そろばんで九九を取り入れ始めます。「2の段」「5の段」から始め、その他の段へと移動していきます。

九九は特殊な言い方であるため、量感をリンクさせることが困難なのですが、100玉そろばんを使えば九九と数がリンクするので、それも解決できます。動画は2とびのように玉を操作していますが、3の段、4の段になるとわかりづらくなるので、筆者は縦に2ずつ重ねて2の段を行っていきます。

100玉そろばんのレパートリーはまだまだたくさんあります。これだけのレパートリーがある活動を、5分~10分でこなすので、筆者のスピードは載せてある動画の1.5倍速ぐらいです。

しかし、子どもは速い方が情報の入りがよいという実感があります。アドレナリンが出て、楽しくなり、活気が出てきます。他にも様々な動画を見つけることができるので、ぜひ、探してみてください。

九九の6~9の段は苦戦するとよく言われますが、9の段は比較的簡単です。9の段の答えは、9、18、27、36と続きます。この十の位と一の位を足すと9(0+9=9)、18(1+8=9)、27(2+7=9)、36(3+6=9)と全て和が9になります。十の位は1、2、3と一つずつ上がるだけなので、いざ、困ったら、この方法で思い出すことができます。

フラッシュカード

フラッシュカードは、カードを次々とめくって子どもに情報をインプットさせる教材です。家庭でも簡単に作ることができます。

100玉そろばんで、「言い方」と「量感」を5月から養ってきた場合は、教科書の九九に入る段階で、既に言い方をマスターしている可能性が高いです。ただし、100玉そろばんでは幾つか抜けている要素があります。

それが、「九九を実際のかけ算の式に落とし込んでいない」ということです。加えて、聴覚ではどうしても正確に聞き取ることができない子どもがいるので、「文字にして視覚で捉えさせる活動が足りない」点もそうであると言えます。これらの要素を補完できるのがフラッシュカードなのです。

ただ単純に「2×1=1」と書いてあるフラッシュカードでは上記の点を補完することはできません。多少時間はかかりますが、筆者は以下のようなフラッシュカードを用意します。

  • 2×1=1の上に「にいちがに」と読み方を表記したフラッシュカード
  • 数字の下にそろばんの玉を載せて、数量と数字がリンクするようにしたフラッシュカード

上の画像はフラッシュカードの表面です。裏面は「2×3=6」とだけ書いておきます。そして、表面をすらすら言えるようになってきたら、裏面も交えてヒントなしで言えるようにしていくのです。

100玉そろばん+フラッシュカードを組み合わせていけば、ほぼ全ての子どもが九九を覚えることができます。大事なのは、九九の学習が始まる直前に行うのではなく、2年生の5月、つまり半年前から少しずつ始めてしまうということです。それだけのゆとりをもった準備期間があるからこそ、無理なく、自然に覚えることができるのです。

暗唱

ここまで紹介してきた方法は、授業で言えば全員で取り組む活動でした。ここからは個別テストを行っていきます。それが暗唱です。学校であれば、授業時間内に暗唱テストの時間を設けます。これは教科書の九九の学習が始まってからです。

「暗唱って難しい・・・!」と思わせないために、半年前から準備をしてきています。改めて暗唱をやらなくても、既に覚えているレベルに達しているので、スイスイと合格をしていくことができるのです。楽しく、自信を植え付けることができます。

しかし、油断は禁物です。暗唱テストの前にはしっかりと準備をさせます。例えば以下のような手順です。

  1. 「来週の水曜日に『2の段』の暗唱テストを行います。」と予告する。
  2. その日まで毎日授業で暗唱の練習タイムを設ける
  3. 「全員で一斉に読む」「先生と子どもと交代で読む」「隣の友達と交代で読む」「一人で読む」「速く読む」「答えを隠して読む」「式の前半を隠して読む」「2×1~2×5を隠して読む」「2×6~2×9」を隠して読む」など、様々なレパートリーを交えて練習する
  4. 目を閉じて言える状態にさせておく
  5. テスト本番は挑戦したい人をその場で起立させ、暗唱を行う。スムーズに、つっかえずに、正確にいえていたら合格にする。少しでもつっかえたら不合格だが、何度も後で挑戦できることは伝えておく
  6. 合格者が多くでたら、その合格者をミニ検定者と認定し、その人たちにも合格判定をしてもらってよいこととする
  7. 再来週は3の段をやるので、それまで何度も挑戦してよいこととする。休み時間もOK

このようにして、確実に合格させることができるようにしていきます。また、合格シールを貼るカードを作り、コンプリートを目指させることもモチベーションを上げる助けとなるはずです。そして、全て合格したとしても、それで終わりにしません。さらに暗唱を習熟させるように2学期一杯を目安にレベルアップ項目を作ります。

  • スピードチャレンジ・・・10秒以内に「○の段」を言い切ることができるか
  • 逆唱チャレンジ・・・「にくじゅうはち」「にはちじゅうろく」のように間違えずに逆に言うことができるか
  • 逆唱スピードチャレンジ・・・逆唱を10秒以内に言い切ることができるか
  • 九九チャンピオン・・・ランダムに出題される問題に連続○回、□秒以内に答えることができるか

上記のような発展的な習熟課題も、「チャンピオンロード」のような楽しそうなネーミングのカードを作り、合格シールを貼らせていくと面白いです。「俺、チャンピオンロードのここまで行ったぜ♪」「なに~俺もやる!」のように、よい意味での相乗効果を図ることができます。

九九には歌があります。それを活用するのも手でしょう。上にあげた「100玉そろばん」「フラッシュカード」「暗唱」を手順通りに行えば、歌はおそらく必要ありません。しかし、家庭の状況やかけることのできる時間の関係で、全てを行うことができないという方もいると思います。その点、歌はそこまで労力がいりません。

歌を覚えるのは右脳です。右脳で覚えたものはなかなか忘れません。皆さんも、自分が小学生のころ流行っていた歌を未だに覚えていると思います。少なくともイントロが流れ出せば、その後に続くメロディを思い出すことができるはずです。そのように、きっかけがあればかなり忠実に記憶を再現することができるのが歌なのです。

だからこそ、忙しい片手間でも歌は重宝します。車で送迎するときに聞かせるだけでも効果大です。ただし、歌を覚えるには時間もかかるので、九九の学習が授業で始まるかなり前からやっておいた方がいいです。また、音声だけなので、それを数字や数量に落とし込むことができるように、フラッシュカードや暗唱にできる範囲で取り組んでみるとよいと思います。

トレーニング

「100玉そろばん」「フラッシュカード」「暗唱」(「歌」)という手段を使って「九九の言い方」「音声と式の関連」「量感」をつなげてきた後は、鉛筆をもって問題を解くトレーニングを行うだけです。

これまでの過程で既に、九九の音声が内言語化されています。音読が黙読になるのと同じです。口に出さなくても、心の中(脳の中)で、九九の音声がリピートされる状態となっているでしょう。

後は、ひたすら、体・筋肉を動かして染み込ませるのです。もし、まだ内言語化が十分にされていないのならば、式を見て、九九を口に出してから、鉛筆を持って書くとよいです。後は、問題の難易度を少しずつ上げていけばよいと思います。順番は以下の通りです。

  1. 2×1=2、2×2=4という順序通り
  2. 2×3、2×8とランダムにする
  3. 他の段も交えてランダムにする
  4. 百マス計算などで習熟する

全ての九九を会得してから行うのではなく、2の段を習得したから2の段のトレーニングを行うといった形で、できるものから始めていけば大丈夫です。

百マス計算は、実際の式の形で問題が記載されていないので、発達に凸凹がある子どもにとってはやりずらい、混乱する可能性もあります。そこは子どもの様子や特性を見て決めるとよいでしょう。

まとめ

この記事の内容をまとめると九九を習得するステップは以下のようになります。

  1. 100玉そろばんで、数字と音、量感をリンクさせておく
  2. 100玉そろばんで、九九の言い回しと量感をリンクさせる
  3. フラッシュカードで、「九九の言い方+量感」を実際の数字や式とリンクさせる
  4. 様々なパターンの暗唱を行い瞬発的に九九が出るようにする・内言語化する
  5. 鉛筆を持って問題を解くトレーニングをする

直前に始めて焦りながらやるよりも、数か月前から先を見通し、余裕をもって覚えていった方が断然入りがよいです。

このような手順で習得すると、方法記憶として学習方法が記憶されていきます。それを、他の勉強に応用していくことによって、工夫した勉強方法自体を自動的に体得することもできるのです。一石一鳥ではなく、二鳥、三鳥と、様々な恩恵を得ることができます。

九九だけではなく、これらのポイントを、是非、他の学習にも応用してみてください。この「共育ライブラリー」では、各学年のキーとなる算数単元の教え方も記事にしてあります。そちらも併せて読み、次の学年への見通しを早めにもっておくこともおススメします。

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