ワーキングメモリって何?元教師が伝える教室での困りごとと鍛える方法

発達凸凹に寄り添う教育

ワーキングメモリ。発達障害の認知が世間で高まっていくに連れて、この言葉を聞く機会も増えてきました。学校教育の現場でも、10年前に比べれば明らかに、研修や子どもの特性を語る上でこのワードが使用されるようになっています。

一方で、ワーキングメモリを「記憶できる量の多寡」と捉えているだけの解釈が広がっているような気もします。

ワーキングメモリは単純な記憶力と同一のものではありません。そして大事なのは、ワーキングメモリが低かった場合の対策や鍛え方を知っておくことです。

この記事では、教師歴10年の経験をもつ筆者が、学校で見られるワーキングメモリが弱い子どもの困り感やワーキングメモリを鍛える方法を解説していきます。

ワーキングメモリは鍛えて、能力アップを図ることが可能です。お子さんのことでお悩みの方やワーキングメモリについてもっと知りたいという方は、是非最後まで読んでみてください。

ワーキングメモリって何?

まず、ワーキングメモリの定義についてです。ワーキングメモリとは、「短い時間に心の中で情報を保持し、同時に処理する能力のこと」を指します。会話や読み書き、計算などの基礎となる、私たちの日常生活や学習を支える重要な能力です。

このワーキングメモリは5つの機能で構成されています。「視空間スケッチパッド」「音韻ループ」「エピソードバッファ」「長期記憶」「中央実行系」の5つです。順番に解説していきます。

視空間スケッチパッド

これは簡単に言えば、目で見て記憶するワーキングメモリです。

頭の中で、映像イメージで想起・思考を展開させている状態が視空間スケッチパッドの機能です。スケッチパッドは視覚システム(形、色、質などを扱う)と空間システム(位置を扱う)に分けられます。

音韻ループ

スケッチパッドが目であったのならば、音韻ループは耳で聞いて覚えるワーキングメモリです。会話や文章理解などの言語的な情報処理に関わります。

私たちは、人の話を聞いたり、自分が話す内容を考えたり、文章の内容を読解したりする中で、脳内でその言語を繰り返し、音韻情報を一時的に保持・再生できるのです。声や音楽が、心の中で再生されている状態を思い浮かべると分かりやすいでしょう。

音韻ループは、2つの特徴をもっています。2~3秒で消えてしまう音響的・音韻的なかたちの記憶痕跡を保持する「音韻貯蔵」

もう1つは、音韻貯蔵部にある内容をリハーサルし、再調音して記憶痕跡をリフレッシュする「調音リハーサル」です。

音韻ループは、心の声、内なる声などと言われることがあります。

エピソードバッファ

エピソードバッファは、音声・視覚・空間情報を統合、保持、アクセスする機能をもちます。

スケッチパッドや音韻ループから得た情報を照らし合わせます。音声に映像を付与したり、映像と音を結び付けたりすることができるのです。加えて、それらに関連する情報を長期記憶から引っ張り出すことができます。

私たちがものごとを考えるときは、昔の記憶や感覚と照らし合わせることを自然に行っています。エピソードバッファは、今、行っている作業に関連した情報を長期記憶から取り出し、一時的に保持することができるのです。

特に、このエピソードバッファと長期記憶がセットで相互に作用するというポイントをおさえておくことが大事だと思います。

中央実行系

中央実行系の主要な役目を一言で言ってしまうのならば、「判断」です。

スケッチパッドや音韻ループから得た情報に、関連する情報を、エピソードバッファで長期記憶から取り出します。それらの関連情報を全て統合して、方向付けをしたり、結論を出したりするのです。

この中央実行系が司令塔の役割を果たしていると言えるでしょう。

教室で見られるワーキングメモリが弱い子の困る場面

日常生活を送る上でワーキングメモリ上困ることは、「忘れやすい」と「思い出す速度」の2点だと考えられます。

「指示を忘れる」「計算手順を覚えきれない」「思い出すことに時間がかかる」「忘れ物が多い」といった具体的な4点に絞って説明します。

指示を忘れる

「じゃあ、今から図工の紙粘土作品を作ります。制作手順は黒板に書いてあります。質問は最後に受け付けますので、説明を最後まで聞いてください。まず・・・」「先生!絵具を粘土に付けてもいいんですか?」このように教師の話を遮って質問してしまう場面が、教育現場では当たり前のように起きます。

この、話を途中で遮ってしまう子こそがワーキングメモリが弱いと考えられる子どもです。話を遮ってしまう理由は様々考えることができます。

たくさんの情報が流れてくるので、「質問は最後に受け付けます」という説明を忘れて言ってしまう。

他にも、ワーキングメモリが弱い故に質問を覚えていることができない。だからこそ、忘れない内にとにかく口に出してしまうといった具合にです。「我慢ができなくて言ってしまう」というより「忘れてしまうことが恐いから言ってしまう」という面が多く見られるときもあります。

また、教師の話が全部終わり、いざ制作開始とい段階で、「先生、絵具は使っていいんですか?」と既に説明し終えたことを聞いてくる子どももいます。

これは、音声による情報を保持することが難しいのでしょう。音韻ループの弱さが露呈していると言えます。

このような子どもに対しては、指示を繰り返したり、「一度しか言いません。」と緊張感と集中力を引き出したり、黒板に手順を文字でも書いておいたりといった工夫が必要になります。

計算手順を覚えきれない

「指示を忘れる」に近い特徴ですが、今回は音声に限った情報ではないかもしれません。

算数の計算手順は、必ずしも、言語化、音声化されるものではないからです。

学年が上がれば上がるほど複雑になる計算手順。脳内でたし算、ひき算、かけ算、わり算を処理して、答えを書き、次の手順に移る。3つも4つもある手順を同時並行でこなしていかなければいけません。

音声で情報を保持しておく人もいれば、視覚的なイメージをもって情報を保持しておく人もいるでしょう。音韻ループや視空間スケッチパッドの弱さから、取り出せる情報量や保持できる時間が規制されてしまうのです。

さらに、高学年になればなるほど、単元ごとにコロコロと計算をする方法が変わってしまいます。やっと覚えたと思ったら、次の単元の学習になってしまうということは往々にしてある話です。そのような場合は、計算手順を見える化しておくと便利です。

上の画像は手順化の例です。既に終えた計算処理を忘れないためにも、補助計算を書いておきます。(この場合は九九)そして一言一句変わらない解き方のセリフが右にまとめられています。

「一言一句変わらず」というのがポイントです。少しでも違うと、「習っていない情報」として認識されかねず、ワーキングメモリを余計に使ってしまう可能性があるからです。

このように、自分のやりやすい方法をメモとして残しておけば、いつでも思い出すことができます。

その単元の学習を進める際中も、手元に置いて参考にしながら勉強しても構いませんし、復習問題として出てきたときに、チラッと見て思い出したりすることに活用してもよいでしょう。

思い出すのに時間がかかる

筆者の経験上、授業で最も困り感を抱えやすいのがこのようなタイプです。

漢字の読み書き、九九、繰り上がりのある足し算、繰り下がりのある引き算。前学年の時に抑えておかなければ困る、積み上げが必要な学習内容は数々あります。

この「思い出すのに時間がかかる」タイプの子どもは、実は内容を覚えていることは覚えているのです。ただ、それを思い出すことに通常の5倍~10倍の時間がかかります。

これは、長期記憶から情報を取り出して統合する機能がうまく働いていないのです。

普通は「5+7=」と考えれば、「12」と答えが瞬時に出てきます。エピソードバッファが「5+7」という視覚から入ってきた情報に関連するものを長期記憶から検索し、取り出す作用が働いているからです。

ジャンルごとに整理されている図書館から、本を素早く見つけてくることができるイメージです。

しかし、この「エピソードバッファ⇔長期記憶」のつながりがうまく機能していないと、関連する情報をなかなか探すことができません。

あらゆる床に本が散らばり、山積みにされている本の山から、たった1冊を探すようなものです。5倍~10倍の時間がかかることも当然です。

毎回毎回情報を引き出すことに多大な時間がかかっていては、授業についていくことも難しくなってきます。全員がノートに書いたことを待って次に進むという授業形式では、「みんなに迷惑をかけないようにがんばらないと・・・!」とプレッシャーを抱えることもありえるでしょう。

加えて、常に頭を抱えながら学習をしていれば、疲れてしまい、勉強に苦手意識をもってしまうのも、当然のことだと思います。

だからこそ、このようなタイプの子どもには、早く思い出すことができる道具をもたせることが大切です。

五十音図(ひらがな・カタカナ)、習った漢字一覧表、九九表、繰り上がりのある足し算一覧表、繰り下がりのある引き算一覧表などです。それらを手元に置き、見て、適切な情報を選ぶ。それだけで大きな助けになるはずです。

大事なことは、本来新しく勉強するはずの内容にフォーカスさせてあげることです。それ以外の部分は、助けとなる道具を使っても十分だと思います。

忘れ物が多い

最後に忘れ物をあげておきます。これは日常生活全般に支障が出る問題です。子どもだけではなく、大人も困っている人が多くいます。

ワーキングメモリの記憶できる容量が少ないと、得た情報が手からすり抜ける砂のようにすぐに失われてしまうのです。音韻ループや視空間スケッチパッドの記憶保持の機能が弱いのでしょう。

だからこそ、「忘れることを前提とした工夫」が必要です。

「週末に持ち帰るものチェックリスト」を学校の机の上に貼っておく。玄関の扉付近に、「曜日ごとの持ち物リスト」を貼っておく。連絡帳は必ず書き、付箋を貼ってすぐに開くことができるようにしておく。忘れそうな情報はすぐにメモをする習慣を付ける。などなどです。

「覚えよう、覚えよう・・・!」と思っていても、「あっ、あれ忘れてた!」「今日は○○のテレビがやる日じゃないか!」といった情報が入ると、覚えようと意識していた情報が抜けてしまうのです。だから目に見える形で思い出すきっかけになるメモを残しておくことが有効になります。

他にも、「どこに荷物をしまったか分からない問題」も生じます。

これは、物の位置を固定することで防ぐことができます。ランドセルはここに置く。連絡帳はここ。という場所を徹底していけばやがて無意識に固定の場所に荷物を置く習慣が身に付きます。すると、ものを失くして困るという現象も減っていくでしょう。

ワーキングメモリを鍛える方法

冒頭で述べたように、ワーキングメモリは鍛えることが可能です。幾つもの手立てがありますが、一例を「視空間スケッチパッド」「音韻ループ」「中央実行系」と機能ごとに載せておきます。

視空間スケッチパッドトレーニング

絵を覚えよう

  1. 時間を決めて絵を見せる。(バイクの絵など
  2. 時間が来たら絵を隠して、絵に描かれていた状況を文章にして書かせる

隠れているものはなあに

  1. 絵を見せて隠す
  2. 1つ無くす
  3. 何が無くなったかを聞く
  4. 無くす数を増やす(発展)

まねして描こう

  1. たくさんの形を提示する
  2. 「まねして描いてください」と提示する

何になるのかな

  1. あるものの一部を描いた絵を同時に見せる(1枚目は家の屋根、2枚目は家の窓など)
  2. 何の一部なのかを当てさせる

カードを覚えよう

  1. 出てくるカードを全て覚える(絵などのカード)
  2. 段々枚数を増やす
  3. 「3番目のカードは何?」と順番を問う質問をする

音韻ループトレーニング

逆唱

与えられた数字の順を逆に唱える

暗算

(例)1分間に100から7を引き続ける

単語

  • 「た」のつく言葉を3つ言う
  • 「く」が最後につく言葉を1つ言う
  • 「あ」で始まる言葉を1分間でできるだけあげる
  • 1分の間に「あ」で始まり「お」で終わる言葉を2つあげる

中央実行系トレーニング

あっち向いてほい

  1. 「あっち向いてほい」の時に指をさした方と同じ方向に顔を向ける
  2. 「あっち向いてほい」の時に指をさした方と反対の方向に顔を向ける

反対を答えよう

赤色の「あお」という文字や緑色の「きいろ」という文字を提示し、文字の色を答えさせる

効果があったワーキングメモリ実践例

上記のトレーニング方法とは別に、筆者が教員時代に行っていたワーキングメモリのトレーニング例を載せておきます。

保護者から「兄弟の中で、先生に受け持ってもらった下の子だけ、記憶力がすごく良くなった。」と声をいただいたこともある実践例です。

  1. 【百人一首】毎日5分百人一首を行う。「五色百人一首」という1日20枚だけ行う教材を使用。1年後にはほぼ全員が百首を見ずに言えるようになった。
  2. 【暗唱】有名な詩文を暗唱する。1~2週間に1つ程度の頻度で扱う。1年間で30~50の詩文を暗唱。半年を過ぎたあたりから暗唱する速度が格段に速くなり始める。(教材は東京教育技術研究所発行の「中高生のための暗唱詩文集」を使用)
  3. 【フラッシュカード】都道府県、英単語、算数で暗記しておくと便利な内容をフラッシュカードで覚えさせる。授業の冒頭で5分程度繰り返す。1週間程度繰り返すと8~9割の子どもが内容を覚える。
  4. 【英語かるた】英語の授業の最後5分~10分程度を使って、英単語のかるたを行う。筆者はフラッシュカードと内容をリンクさせていた。倍速で英単語を覚えることができる。小学3年生でも、1週間に1回の授業で200個程度の英単語を覚えていた。
  5. 【その他授業全般】定着させたい内容は必ず繰り返し行う。ただし、フラッシュカードなどの短時間でストレスなくできるやり方で。1週間に3~4回程度。それを2~3週間続けるとほとんどの子どもに内容が定着する。また、スピーチを覚えたり、算数の計算手順や漢字を覚えさせたりするときも、必ず口に出して練習させる。そして、テストや本番前に必ずリハーサルをさせると記憶できる容量が徐々に広がっていく。

ここにある実践は、ほんの一例です。しかし上記の内容を1年間にほぼ全て盛り込んで行っていました。

どれも、1日5分程度なので大して労力もかかりません。しかし、1日5分のトレーニングを1年間継続すると、圧倒的な成果が現れます。そして、とにかく、ものごとを記憶する回路が強くなるのです。

ワーキングメモリを測る心理検査

ワーキングメモリが強いのか弱いのかは、厳密には検査をしなければ正確な値は分かりません。ここでは、ワーキングメモリを測ることができる検査を簡単に紹介します。

WISC

ウィスクラーによって作成された児童知能検査。

数字を覚えて繰り返させる「数唱」や数字とかなを順序通りに並べ替える「語音整列」、算数の問題を暗算で答える「算数」があります。どれも「メモを取らず耳で聞いて覚え、答える」という、音声入力を中心とした内容が多い印象です。

K-ABC

カウフマン夫妻によって作成されたものを元にしてある個別知能検査。

継次処理・同時処理といった認知能力に加え、計画能力、学習能力を測定することができます。

同じ順序で数字を繰り返す「数唱」、影絵の中にある物の名前を言ったり、指をさしたりする「語の配列」、3種類の手の形を一連の動作で見せ、同順序で動作を繰り返す「手の動作」などがあります。

田中ビネー知能検査

年少児や発達の遅れがある児童生徒のために発達の状態を把握することができます。

二文字のカタカナ15個を覚え、その後に書き出す「語の記憶」、読み上げた文章に合った順番にカードを並び替える「場面の記憶」、数字を聞いて順序通り答える「数の順唱」、その逆の順序で答える「数の逆唱」などがあります。

AWMA

コンピュータを用いて、ワーキングメモリをスクリーニングすることができる検査です。

数や言葉を覚えて復唱をする「言語的短期記憶」や、文章の正誤を判断したり、数字を逆順に再生する「言語性ワーキングメモリ」、パソコンに示される刺激や迷路のルートを覚える「視覚性短期記憶」、図形の仲間外れを探したり、間違い探しをしたりする「視覚性ワーキングメモリ」があります。

AWMAは、ワーキングメモリに特化した検査であり、視空間スケッチパッドと音韻ループの両面から均等に検査をすることができるのが特徴です。

まとめ

ワーキングメモリを鍛える活動は、ちょっとしたクイズや遊びの中に工夫を交えてできるものが多いです。しかし、単発で終わってしまっては大きな伸びを実感することはできません。

中・長期的に取り組むことが重要です。1日5分でよいので、お子さんが興味をもちそうな内容を試してみるといいと思います。

暗唱などの方法を教えながら、ワーキングメモリトレーニングをしていくと、記憶する方法自体を学習していきます。これを方法記憶と言います。

すると、記憶する方法を、自分で他の分野に活用していくことができるので、ワーキングメモリを鍛える速度をさらに加速させることも可能になるでしょう。

今回は、ワーキングメモリのみに焦点を当てたので、その他の発達に凸凹がある子どもの特性と混同している内容もあります。発達凸凹の子どもたちの中には、ワーキングメモリに弱さをもつ特徴が多く見られます。

発達凸凹の症状やそのライフハック、サポートに関する内容はこれからも発信していくつもりですので、気になった方は、そちらの記事も読んでみてください。

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