【元小学校教師】脳科学を生かした効率的な勉強方法とは?

家庭教育のすすめ

「あなたは勉強が好きですか?」と聞かれて、どう答えますか?

勉強をただ覚えこむだけの作業と考えている人にとって、その時間は苦痛でしかありません。一方で、勉強を自分の成長する糧として考えている人にとっては、脳にとっての栄養のようなものです。

そのような人は、必ずといってよいほど、勉強内容を効率よく吸収する工夫をしています。

筆者は元小学校教師です。小学生の段階で、既に、工夫した勉強方法を会得している子どもと、教師に言われたままに、勉強を作業としてやっている子どもに分かれています。

勉強方法そのものを学習した子どもは、やがて自立した学習ができるようになり、中学、高校と順当に力を付けていくことができます。

そのような子どもは、大人になってからも勉強を続け、30代、40代になった頃には、その差は圧倒的なものになります。もう取り戻せません。

その差を生み出すきっかけは、小学校段階の勉強方法の違いで既に始まっているのです。

筆者自身も、年間50~60の教育に関する研究・セミナーに参加したり、年間100冊~200冊の読書をして、様々な勉強方法を研究・実践していきました。

その知見に基づいて、子どもたちに勉強方法そのものを授業したり、身に付けさせたりしてきました。

ある保護者からは、「うちの子どもは兄弟で何故か大きな差が出てしまいました。下の子の方が記憶力が明らかにいいんです。それは先生に1年生のときに受け持ってもらったことが、かなりの影響を与えているんだと思います。」と言われました。

そんな筆者の実践を通した経験に基づいて、「効率的な勉強法とは何か」と解説していきます。

脳科学の視点を取り入れた効率的な勉強方法

脳科学を用いた勉強法といっても、それだけで数えきれないだけの方法があります。

今回は、分かりやすく、かつ、取り組みやすい方法を6つに絞り、1つ1つを説明していきます。

「分散して勉強する」「感情を動かして勉強する」「変化のある繰り返し」「大局→細部の順に勉強する」「経験記憶にする」「継続する」の6点です。それでは、まず、1点目から。

分散して勉強する

分散して勉強するメリットは2つです。1つ目は「ストレスを軽減することができる」ということ。もう1つは、「記憶が定着しやすくなる」ということです。

ストレスを軽減できる

ストレスは記憶にとって天敵です。脳はストレスを感じると、体から「グルココルチコイド」という悪玉ホルモンが分泌されます。これが、記憶力を低下させてしまう原因となるのです。

例えば英単語を100個覚えなければならないとします。1日で全て覚えようとしたならば、一気に100個覚えなければいけません。これは、ほとんどの人にとって、かなりのストレスです。

しかし、2日、3日と分散したらどうでしょう。50個ずつを2日間、33個ずつを3日間、25個ずつを4日間と、1日1日に費やすエネルギーは余裕をもった状態になります。

脳は、四苦八苦して100個全部を覚えようと頑張るよりも、確実に50個覚えた方が結果が得られるようになっています。分散して学習するからこそ、脳や体、心に無理なく、そしてより記憶に定着できる精神状態で勉強に臨むことができるのです。

記憶が定着しやすくなる

脳の記憶を司る部分を「海馬」と言います。海馬はいわば、その人間にとって必要な情報を保存し、それ以外を捨てる(忘れる)といった「ふるい」としての役割を果たしています。

脳が記憶できるものは2種類あります。

それは、「感情が絡んだ出来事」と「本人が覚えようと意識した出来事」です。

脳は、その人間の生命にとって必要である情報を保存するようにできています。例えば、事故に遭遇して、後少しで死ぬところだったという経験がある人は、その経験を決して忘れることはないでしょう。

そして、その状況に近いシチュエーションが迫ると脳が危険信号を出し、危機を回避できるはずです。そのように生き延びるために脳は働くのです。

では勉強はどうでしょうか。勉強は生命にかかわると言えるほど、緊急性のあるものではありません。

しかし、「生命と同等に重要なものである」と勘違いさせることはできます。それが復習する頻度です。

何度も何度も同じ情報を海馬に送ることによって「これはよっぽど重要な情報なのだな。」と思い込ませることができるのです。すると、海馬はその情報を長期記憶に保存するようになります。

エビングハウスの忘却曲線と言うものがあります。一度学習して覚えたと思える内容も20分後には42%忘れ、1時間後には56%、1日後には74%忘れてしまうのです。

しかし、復習をすると、学習した内容の忘却割合がどんどん減少していきます。段々と忘れづらくなっていくのです。

この復習は少なくとも1か月以内に行わなければ意味がないと言われています。2か月に4回が理想的です。

理想的な復習頻度】

1日後に1回目の復習

1週間後に2回目の復習

1か月後に3回目の復習

2か月後に4回目の復習

ここで決して忘れてはならないのが睡眠の重要性です。

いくら効果的な頻度で復習をしても、睡眠を十分に取らなければ、記憶力の強化は図れません。ここで言う十分な睡眠とは6時間以上眠ることを指します。

一睡もしないで覚えた情報は、海馬にあっさりと捨てられてしまいます。睡眠を取ることによって、脳内の情報を整理する時間を与えているのです。

効果的な復習頻度+十分な睡眠を掛け合わせていれば、確実に記憶は強化されていきます。そのことを踏まえた上で、学習する内容を精選し、復習のスケジュールを組み立てていくことが大切です。

感情を動かして勉強する

脳が記憶できるものは、「感情が絡んだ出来事」と「本人が覚えようと意識した出来事」であることを述べました。今回は「感情が絡んだ出来事」にスポットを当てます。

人生で心から感動したこと、最高に楽しかったことということは、色褪せずに、いつまでも心の中に残っているものです。苦しかったこと、辛かったことも然り、です。このことからも、感情が絡んだ出来事は忘れにくいということが分かると思います。

これは、脳波が関係しています。脳波にはアルファ波(リラックス・集中時)ベータ波(緊張・イライラ時)などがあります。

その中の一つにある「シータ波」が記憶に関連する重要な役目を果たしているのです。シータ波は、新しいものに出会ったり、初めての場所に行ったりしているときに生じます。つまり、興味をもって、ものごとを見つめたり考えたりするときに発するのです。

このシータ波が出ているときは少ない刺激の回数で、長期記憶に記憶が送られることになります。

言い換えれば、興味をもっているものごとは、簡単に覚えることができるのです。「好きこそものの上手なれ」ということわざがあるように、好きなものごとほど上達が早いカラクリはこのシータ波が絡んでいます。

また、脳の部位の中に「偏桃体」という場所があります。この偏桃体は喜怒哀楽の感情を生じさせる場所なのです。

そして、喜怒哀楽の感情が生まれているときには、少ない刺激で長期記憶に記憶が送られる現象が生じます。

だからこそ、楽しく勉強をすることができる人ほど、内容を記憶に留めておくことができるということになります。

やらされている感満載な勉強では、非常に効率が悪いということを分かってもらえたでしょうか?

逆に、自分で進んで興味関心をもって探求をしていく人は、ひたすら楽しく、スポンジのように内容を吸収していくことができるのです。

新しいことを学ぶ楽しさに目覚めた人は、大人になっても学び続け、周囲と圧倒的な差をつけていくことでしょう。

また、「悔しい」という感情も偏桃体を刺激します。「あの子には負けたくない。」「見返してやる!」そのような一見マイナスと思えるような感情でも、記憶を強化する面で捉えると大いに意味があるのです。

負けず嫌いの人の成長スピードが速いことも、この事実に少なからず関係しているでしょう。

変化のある繰り返し

復習は2か月に4回行うことがベストだと説明しました。そしてこの復習はあくまで同じ教科書、参考書を使った場合に限ります。

勉強のコツを会得していない人は、よく2冊も3冊も参考書を購入します。1冊終わったら次の1冊、それが終わったらまた次・・・と参考書をコロコロと変えてしまうのです。それでは復習の効果は激減します。

あくまで復習は同じ参考書・教科書を用いたときに効果を発揮するのです。しかし、ここで重要なのが「変化のある繰り返し」を交えた手法で、復習を行うことです。

2か月に4回繰り返して行う復習も、毎回同じやり方では効果を十分に発揮することができません。変化がない勉強法は退屈な「作業」となってしまい、シータ波も偏桃体も刺激されることはありません。だからこそ、変化を加えるのです。

例えば、1回目は重要部分を隠して口で言う。2回目は最初の1文字目だけは既に書いてある状態の解答欄に答えを書く。3回目はヒントなしで書く。4回目は間違えた問題だけ書くといった具合にです。このほんのちょっとの変化を入れるからこそ、脳は常に刺激を得る状態で機能することができます。

「大局→細部」の順に勉強する

歴史の勉強を始めたときに、いきなり飛鳥時代から学習したならば、その時代の内容は分かりますが、どのような歴史の流れを受け継いでいるのか、何時代と何時代の間なのかが分からなければ、浅い理解となってしまいます。

このように「詳細→全体」という順番で学習を進めると、全体像の把握ができないので、学習効果をあまり上げることができません。効率を上げるためには、順序を逆にすればよいのです。これを「大局(全体)→細部」と表現しておきます。

歴史で言えば、まず時代を把握してしまうのです。「縄文時代→弥生時代→古墳時代・・・・江戸時代、明治時代、大正、昭和、平成」と言った具合にです。

その上で、細部を学ぶのです。すると、「平安時代だから全体の3~4割目をやっているんだな。」と歴史の流れを意識しながら勉強を進めることができます。時代と時代のつながりも、より掴みやすくなるでしょう。

これは、もちろんどのような勉強にも応用できます。

筆者はよく一覧表を作ります。例えば脳科学についての勉強であれば、複数の本を読み、自分がまとめたい項目を書き出します。その項目が一覧できるようノートに表をつくり、細部を一つずつまとめていくのです。

全体像をつかんでいると、「今は30%ぐらい内容を把握してきたな」という攻略ゲームのような楽しさが、ジワジワと湧き上がってきます。そして、復習をするときも、非常に振り返りやすいのです。

経験記憶にする

記憶には様々な種類があるのですが、ここでは「知識記憶」と「経験記憶」を扱います。

「知識記憶」は何かきっかけがないと思い出せない記憶です。対して「経験記憶」は自分の過去の経験が絡んだ記憶のことを言います。経験記憶は自在に思い出すことができるだけではなく、覚えこむこと自体がラクであり、忘れにくいのです。

勉強したい内容を最も効率よくアプトプットし、経験記憶にしてしまう方法は「人に説明する」ことです。「エドガーデールの学習の法則」というものがあります。

「聞く・読む・見る」という受動的な動作では30%の学習定着度が限界。「見ながら聞く・言うor書く」といった複数の感覚を使ったり、能動的に行動すると70%まで上がります。しかし、何よりも圧倒的なのが90%の定着度を誇る「人に教える」という方法です。

とは言っても、そうそう身近にいつも教える相手がいるとは限りません。そんな時は、「2歳年下の人物に教えるつもりでつぶやく」ことがおススメです。

「一人でつぶやくなんて怪しい・・・。」と思う人もいるかもしれませんが、これは英語を話すことができるようになる人が、必ずと言っていいほどやっていることです。

筆者も海外留学・滞在経験が数年あるので分かるのですが、仮想の相手を想定して、独り言でシュミレーションをする練習を行うと加速度的に上達が速くなっていきます。

説明することが難しければ、「言う」「書く」といった様々な形でアウトプットすれば、ただ単調に勉強しているよりも効果は高まるはずです。

継続する

最後は「継続する」です。「なんだ。結局最後は継続じゃないか。」と思う人もいるかもしれません。

しかし、脳科学の知見から継続の重要性を聞くと、納得感が増し、継続する意味を深めることができると思います。これには「学習の転移」という作用が関係しています。

「2か月に4回復習をする」「感情の動きを利用して勉強をする」「人に説明する」といった内容を勉強をする方法です。人は何かを学ぶときは、その内容と勉強方法を同時に学んでいきます。そしてこの勉強方法は、当然他の勉強内容に応用できます。これが、「学習の転移」です。

さらにこのような実験もあります。知識量10000の人と知識量9000の人が50000もの量の内容を同時に覚えると、知識量が10000の人の方が1043件多くの情報を覚えたというものです。

つまり元々もっている知識が多ければ多いほど、新しく学習する内容をさらに覚えやすくなります。

何の知識のないアラビア語を覚えるよりも、少しでもかじったことのある英語を覚える方が誰だって楽だと思います。自分が既にもっている知識の中に、関係づけることができるものが多いほど、新しい内容を学習するときは強いのです。

これに、「学習の転移」が加わることによって、継続すればするほど、加速度的に学習内容が身に付いていくことになるのです。これを「累乗の効果」と言います。

勉強量と成績の関係は、単純な比例関係にあるのではなく、むしと等比級数的な上昇カーブを描くのです。学習量に対し、効果は1、2、4、8、16・・・のように上がっていくことになります。

もし、新しい勉強を始めた場合、3か月は継続してみてください。この「累乗の効果」が現れるのは約3か月。そのように目安をもって、継続の意味を深く理解すれば、根気よく続ける期間を長くすることができると思います。

まとめ

この記事で出てきた効率的な勉強方法をまとめます。

分散をする・・・復習を2か月に4回行う、ストレスを減らす、睡眠を6時間以上とる

感情を動かして勉強する・・・シータ波や偏桃体を利用して少ない刺激で長期保存できるようにする

変化のある繰り返し・・・脳は飽きを嫌う。同じ参考書や教科書を変化を加えた方法で復習する

「大局→細部」の順に勉強する・・・まずば全体像を理解してから細部に入る

経験記憶にする・・・人に教える、想像力を働かせシュミレーションをする

継続する・・・学習の転移と知識量を増やすことで「累乗の効果」を引き起こす

大事なことはこのような原則を理解して、後は自分に合った方法にカスタマイズすることです。

最後に、筆者が現在行っている勉強方法を例として記載しておきます。

筆者は現在療育の勉強をしています。まずは、気になっている分野や観点を書き出します。「脳科学」「発達段階」「運動と脳の関連性」「感覚統合」「心理検査」などなどです。そのようにして全体像をつかんでいきます。

そこから、1つの分野(細部)を選んでいきます。複数の本を読み、それを付箋にどんどん書き出します。情報量が集まった段階でそれを見開き2ページのノートにまとめるのです。

まとめる際は、必ずカラーペンを使ってデザイン性にこだわります。図やイラストも頻繁に使います。ワクワクしてシータ波を出すためです。勉強というよりも、アートという体験に変えてしまうイメージです。

その方が、より経験記憶に近くなるので、内容が残りやすい。それを、毎日ちょっとずつやり、分散させて記憶の定着を図るのです。さらに、その内容をブログや職場での会議、NPOで講師を務めるときの講座などでアウトプットするのです。人に説明をすることにつなげます。

このような方法を、5年以上継続していますが、明らかに習得が速くなってきていることを感じています。

子どもと勉強方法を一緒に考える際も、このような原則を教えてあげることがとても大切です。そして決して押し付けることなく、子ども自身に考えさせる。発達段階的に自分で考えることが無理であるのならば、一緒に考えればよいのです。

復習の頻度、ワクワクするような勉強方法・教材、説明する、継続、このような取り組みやすい所から始めてみるといいと思います。

効率的、効果的な勉強方法はまだまだ存在します。そのような、少しでも役に立てる情報を引き続き発信していきます。効果があった勉強方法やなかなか上手くいかない状況など、様々教えてもらえるとうれしいです。

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