「1年生のうちは大丈夫だったのだけど、小学2年生、3年生から急に算数嫌いになってきて・・・。」「プリントで補修しているのだけれど、計算がなかなか速くできるようにならない。」「宿題をやるのが辛そう。」
教員時代、そのような困りごとを保護者に相談されたことがよくあります。きっと、同じようなことでお困りのご家庭もあるのではないでしょうか。
確かに、計算の処理スピードは、子どもによってかなりの差があります。計算の手順を教えても、次の日には忘れてしまうという子どももいます。
しかし、子どもたちは努力てしいないわけではありません。子どもたちは、一人一人、脳の特性が違うのです。その子たちが、なぜ、そのように困ってしまうのかを解明すれば、どのようにサポートをしていけばよいのかが見えてきます。
筆者は元小学校教員です。10年間の経験の中で、年間を通してクラスの平均点が90点を越えたこともあります。
クラスの平均点ですから、どの子も、70点、80点を取ることができるようにする必要があります。「なぜ、この子には、皆と同じように教えた内容が入っていかないのだろう?」と疑問に思ったことを徹底的に調べ、様々な結果を出している方に聞き、研究をしてきました。
算数嫌いな子どもを、「得意」にまではできなくても、「平気」にすることはできます。
この記事を読めば、お子さんの困り感が少しでも解消できるヒントを得られると思います。一人でも多くの子どもたちが、「努力は報われる。」「算数で自信がついてきた。」と思うことができるように、経験から得た知見を紹介していきます。
子どもが算数嫌いになる理由とその特徴
算数嫌いになる、苦手と感じる理由を大きく考えて4つに絞ります。「計算手順を覚えることができない」「計算を処理する速度が遅い」「ケアレスミスが多い」「文章題が苦手」の4つです。では、なぜ、苦手なのか。何に困っているから、つまずいているのかを解説していきます。
計算手順を覚えることができない
算数は単元によって解き方がコロコロ変わります。その特徴は高学年になればなるほど加速していきます。
折角時間をかけて覚えたのに、次に行くとその内容が使えない。しばらくして復習問題が出てくると、覚えたはずの手順を忘れている、ということが往々にして発生します。
計算手順を覚えることが苦手な子どもの特徴は様々ですが、「九九を覚えることができたか」が、一つの物差しになります。教室に30人子どもがいると、九九がなかなか入っていかない子どもは3人~6人ほどいるものです。
これはワーキングメモリという脳の記憶する機能が関係しています。人間が短期的に物事を覚えることができる数は、平均7個と言われています。しかし、人によっては、その数が2個や3個しかない場合があるのです。
ワーキングメモリが少ないのに、「わり算の筆算」のような複雑な手順の計算がくると、次に何をすれば良かったのかが分からなくなってしまいます。手順を思い出したとしても、覚えておかなければならなかったかけ算の計算を忘れしてしまったりします。
それは一時的に脳の中に保持できる情報の数が限られているからです。
このような子どもには、記憶の保持を無理やりさせるのではなく、手順を視覚化したり、計算の補助をノートにきちんと書いたりすることが大切です。次章で詳しく説明していきます。
計算を処理する速度が遅い
「繰り上がりのある足し算」「繰り下がりのある引き算」「九九」「わり算」の答えが瞬時にパッと出てくる子どもは、すらすらと問題を解くことができます。
思い出すことにストレスがなく、新しく習う計算の手順を覚えることに集中力を注ぐことができるからです。
それに対して、なかなか答えが思い出せない子どもは、時間がかかって焦ってしまったり、イライラしたりしてしまいます。
計算の手順を覚えることに、なかなかエネルギーを向けることができません。皆から置いて行かれたように感じてしまいます。それでは、算数に苦手意識をもってしまうのもうなずけますよね。
これらの特徴もワーキングメモリと関係しています。このような子どもは、四則計算の答えを全て覚えているのではなく、一部分抜けている場合があります。
7~8割は覚えているのだけれど、2~3割は不安といった状態です。すると、計算に自信がなくなってしまい、答えが合っているのかという心配から、計算速度が遅くなってしまいます。
また、ワーキングメモリには思い出す機能もあります。エピソードバッファという、長期記憶から情報を取り出す機能です。特性上、この機能が弱い子どもは、なかなか計算の答えをパッと検索することができません。
パソコンやスマホのCOREi7や5Gといった処理速度と、初期ウィンドウズの砂時計が何度も回転して検索しているような速度の差です。覚えているは覚えているのですが、答えが浮かんでくるまでの時間がかかるのです。
このような子どもは、答えをすぐに検索できるような道具を用意してあげることが効果的です。保存できるメモリが一杯なら外付けのハードディスクを用意してあげればよいのです。
ケアレスミスが多い
たまにある、うっかりミス程度なら、誰にでもあります。ここで言うケアレスミスは、10問中1~3問を毎回のように間違えてしまうレベルのミスのことを言います。
特に、3年生の「かけ算筆算」から、計算が複雑になっていきます。九九の答えを瞬時に出し、十の位に繰り上がる数字を頭の中に保持しておき、次のかけ算で出た数字を暗算で足す。
場合によっては、繰り上がりのある足し算、九九を同時に頭の中でこなさなければならないのです。言葉で聞いているだけでも、自分が次に何をするのだったか、繰り上がりの数字が何だったかを忘れてしまいそうですよね。
これが、4年生のわり算筆算になるとさらに複雑化し、5年生では手に負えなくなっていきます。
他にも、ケアレスミスが多い子どもはノートが見づらいことが多いです。そもそも数字がマスに収まっていない。問題同士がすぐ近くに書いてあるので、解いている問題に余計な情報が混ざってしまう、といったことが頻繁に起こりえます。
文章題が苦手
「池に白鳥が5羽いました。そこに白鳥が3羽来ました。」と聞けば、大抵の人は足し算であるという発想が自然と出てきます。
しかし、この足し算、引き算の概念が分からない子どもがいます。かけ算、わり算も同様です。そのような子どもは、例え文章を理解できていても、式を立てることができません。
また、自分で文章題を読んでいても、何の話が全くイメージができないという子どももいます。文字情報だけでは、視覚が弱い子どもにとって、内容が理解がなかなか難しいところがあるでしょう。大人が問題を読んであげてようやく鉛筆が動き出す子どももいますし、まだ、頭に「?」が浮かんでいる子どももいます。
このような子どもたちには、文章題のストーリーが頭の中に浮かんでくるようなサポートが必要です。
苦手を平気、もしくは得意に変える!苦手克服法
「計算手順を覚えることができない」子どもへのサポート方法
「アルゴリズム」という計算手順を順序化したものがあります。大切なのは、アルゴリズムを短い言葉で、リズムよく、毎回ブレずに変わらない言葉で教えてあげることです。例えば、わり算の手順を見てみます。
①24わる6は6の段で計算
②ろくいちがろく、ろくにじゅうに、ろくさんじゅうはち、ろくしにじゅうし
③ヒット!
④赤で丸
⑤上から数えて1、2、3、4
⑥答え4です
このような手順です。これは、計算の答えが瞬時に出てこない子どもやワーキングメモリが少ない子どものために、途中経過を全て書き出して視覚化しています。
わり算は基本的には九九の応用なので、このように、割られる数と一致するまで、割る数の九九を書き出させるのです。
すると、子どもたちは、「九九を書き出していけば、いずれ答えが出るのか。」と安心することができます。
さらに、毎回、この計算手順をブレずに同じように声に出すことが大切です。音声化すると耳からの情報で歌のようにリズムで計算手順を覚えることができます。
慣れてきたら、「次はどうする?」という一言を付け加えるとさらに効果的です。この「わり算」の学習では、次のようなやりとりになります。
「まず、何の段で計算する?」→「6の段で計算。」「次はどうする?」→「ろくいちがろく・・・」「24で?」→「ヒット!」「次はどうする?」→「赤で丸」「次はどうする?」→「上から数える」「答えは?」→「4!」といった具合です。
手順を単純に唱えさせる段階が慣れてきたら、このように、本人に考えるように促し、負荷を高くしていきます。
最終的には、自分の脳内で音声化→音声化なしで自動的にできる→補助計算なしで計算できるようになるとベストです。
また、計算手順を覚えるまでは、手順表を付箋に書き出したり、プリントアウトしたりして、常に手元に置いておくことも、子どもによっては有効です。これなら、いつでも自分で手順を確認して、宿題に取り組むことができます。
筆者が以前受け持っていた子どもの中に、一人でほとんど宿題をすることができなかった女の子がいました。しかし、手順表を持たせた後は、「これがあれば、一人でも私できるんだよ。」と母親に言い、進んで宿題に取り組んでいたそうです。
後は、問題をたくさん解き、身体に染み込ませるだけです。アルゴリズムを染み込ませておくと、2~3か月経った後に復習しても、すぐに思い出すことができるようになります。
「計算を処理するスピードが遅い」子どもへのサポート方法
計算処理スピードに対するサポートは、道具に頼るのがファーストステップです。
筆者は九九表、繰り上がりのあるたし算一覧表、繰り下がりのあるひき算一覧表を用意していました。
子どもに「このような道具があるが、使いたいか」の意思を聞き、ほしい人には、年間を通して貸し出すのです。
そして、授業中も、テスト中も使ってよいことにしていました。テストで見るのは、新しく習っている単元の内容を理解しているのかをチェックしているのであって、九九の能力やたし算ひき算の能力を見るためではないからです。
計算をスムーズに処理できなければ、単元の内容とは関係のないところでエネルギーを使うことになります。授業では、自分一人だけ遅いように感じてしまい、焦り、イライラし、余計に集中できなくなってしまうのです。
もちろん、根本的な解決にはならないかもしれませんので、それとは別に、九九やたし算、ひき算の練習をしておくことは大切です。九九には歌もあります。歌だったら段違いに入りやすいですし、一度覚えた記憶が抜けにくいです。
また、九九表などの道具で常に確認していく内に、少しずつ覚えていくこともできます。
お子さんの様子を観察しながら、無理をさせない範囲で、少しずつ取り組ませるのがよいのではないでしょうか。まず最優先なのは、意欲をもたせることだと思いますから。
「ケアレスミスが多い」子どもへのサポート方法
ケアレスミスが多い子どもには、視覚に訴えるサポートが効果的です。
例えば、ノート。ノートは1マス1数字で書くことが鉄則です。筆算のときに、1マス1数字でなければ位がずれてしまいます。そして、1マス1数字にすると、ノートが全体的にきれいになっていくのです。
さらに、ノートの美しさに磨きをかけるのが定規です。筆者は算数の学習で直線を引くときは、全て定規で引かせていました。これは筆算の横線を含みます。
一回一回定規を引くのは面倒くさい作業かもしれません。ですが、定規を使うと計算のスピードが自動的にセーブされるのです。
速く解くことに主眼をおくと、どうしてもミスが生じます。そこに「定規を引く」という緩急を生み出すパーツを入れると、落ち着いて問題に取り組む姿勢が生まれてきます。
また、問題と問題の間は1~2マス空けて、隣接する問題が被らないようにする工夫も必要です。「どこまでが①の問題に関する数字で、どこまでが②なのか・・・?」というノートを書く子どもは、ほとんどの場合非常にミスが多いのです。
これらのノートのポイントを守るだけで、ミスが生じる確率がグッと減ると思います。
もう一つ大切なことがあります。それは、補助計算を堂々とかくということです。例えば、「あまりのあるわり算」の問題。わる数の九九、わられる数に収まる限界、あまりの値、それらを全て頭の中ではなく、ノートに書いて視覚化します。
すると、頭に保持した情報が抜け落ちても、ノートを見返して、正しい解答を選び出すことができるのです。
「文章題が苦手」な子どもへのサポート方法
文章題が苦手な子どもへのサポート方法のキーワードは「イメージ化」です。
まず、文章を読むこと自体がたどたどしく、文字の読解にエネルギーを使ってしまう子どもは、内容読解まで、頭のメモリを使うことができない場合があります。そのときは、まず、文章を声に出して読んであげるところから始めるとよいです。
次に、文章は読むことはできるが、話の内容を理解できない子どもです。その子どもには、「何の話ですか。」と問います。「すると、買い物をしてお菓子とジュースを買った話。」のように答えることができます。
この時点で、ストーリーの流れ、枠組みができあがります。次に、「何円持っていましたか。」「お菓子は何円ですか。」などと肉付けとしての情報を聞いて、内容を整理してあげるのです。
この大まかに言って何の話なのかという全体像をつかませると、イメージがしやすくなります。そのトレーニングを積んでいけば、自動的に思考する回路がいずれ出来上がっていきます。
また、イラストにすることも有効です。大人でも難解な税金の話が出てきたら図式化した方が分かりやすいと思います。それは子どもも同じです。
まずは、大人がイラスト化して、子どものイメージ不足を補ってあげましょう。それを繰り返す内に、「まず、どんなイラストをかく?」「次は?」とイラストを想起させる言葉がけをしていき、最後は自分でイメージ化できるようにしていくのです。
そのような手段でもなかなか効果を得られなければ、キーワードを探すこともできます。「『合わせて』はたし算」「『違いは』はひき算」といったように、です。
ただし、これは全ての文章題に当てはまるわけではありません。キーワードを教えることをしつつも、イメージ化を自分でできるようになるサポートは続けていった方がよいでしょう。
親は子どもにどうかかわるべき?
子どもが困っていないのに親が一方的に教えては「押しつけ」になりますし、子どもに頼まれてもいないのに、手が止まっていたら教えるでは、「甘え」になってしまいます。しかし、困っているわが子を放っておけない気持ちも分かります。バランスが大事ですね。
ここでは、子どもの自尊心を傷つけずに、上手にサポートをするかかわり方を解説していきます。
子どもの意思を尊重する
子どもが何も意思を表明していないのに、勝手に助けていては、「ぼくの意見は大切にされない。」というメッセージになってしまいます。もしくは、「わたしは算数ができないって心配されているんだ。」と子ども自身が認識してしまうことになりかねません。
まずは、子ども本人が困っているのか、助けてほしいのかという意思を確認しましょう。「助けてほしい。」と言えば、適した勉強法を一緒に探していけばよいのです。
「助けはいらない。」と言えば、「分かった。もし困っていたら助けるから、いつでも言ってね。」と言えばOKです。もしかして子どもは自分で解決しようとしているのかもしれませんし、友達や先生に聞こうとしているのかもしれません。
大事なのは、「いざというときは、お家の人に聞けばいいのか。」という選択肢を示しておくことです。
否定しない
算数の能力と本人の人格を結び付けて否定することは、とても子どもを傷つける行為です。結果よりも本人がどれだけ努力したかということに焦点を当てて、認めることが大切です。
そもそも算数ができなくても、死ぬことはありません。今やスマホがあれば、何でも検索できますし、電卓を使うこともできます。
むしろ、人を喜ばせようとする人柄や自分の得意なことなら最後までクオリティにこだわって取り組む力などの方が、よっぽど社会に出たときに役に立つ力です。
「算数ができなくてもそんなに深刻になる必要はないから!」と親がドーンと構えていることが大切です。その方が、子どもはリラックスして、自然な意欲を湧きだたせることができます。
そして、子どもが進んで問題を解決しようとする姿勢や、自分の目標に向かって日々努力している過程をほめてあげてほしいと思います。
まとめ
算数を苦手と思う理由や、なかなかできるようにならない特徴は様々です。大切なのは子どもが何に困っているかをしっかりと観察し、一緒に合っている勉強法を探していこうという姿勢です。
「ワーキングメモリ」「作業の視覚化」「文章内容のイメージ化」「覚えられない計算は道具を使う」など、使えるものは全て使い、色々と試していってほしいと思います。
そして、「できた!」という笑顔や、「自分一人でもこれだけできるんだよ!」という自信に満ちた顔を、子どもの姿から見つけてほしいと思います。筆者は、「子どものために一つでも多くできることを・・・!」と思い、行動している親御さんを応援しています。
算数にはまだまだ、「たし算、ひき算(1年生)」「九九(2年生)」「わり算・かけ算筆算(3年生)」「わり算筆算(4年生)」「割合(5年生)」「比(6年生)」などの「つまずき単元」がたくさんあります。その攻略法は、また別の機会に紹介していく予定ですので、ワクワクしながら待っていてもらえたらと思います。
このブログを見て、実践して上手くいったこと、上手くいかなかったところを教えてもらえると有難いです。
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