「何度も練習しているのに、なんで覚えられないのだろう・・・。」「線が一本足りなかったり、ミスが多いんだよなぁ。」「漢字がだんだん嫌いになってきています・・・。」そう、悩んでおられる親御さんも、きっといらっしゃると思います。
実は、人はそれぞれ得意なインプット・アウトプットの仕方が違います。目で見て覚えた方が得意なのか、耳で聞いた方がよいのか、体を使って運動的に覚えた方がいいのか、様々な特性があるのです。つまり一人一人に合った勉強法というものが存在します。
筆者は元小学校教員です。10年間教師として働き、約300人の小学生に勉強を教えてきました。クラスには2~3割、一般的な方法では、漢字がうまく入っていかない子どもがいます。
そこで、一人一人の特性に合わせた漢字指導を研究・実践し、常に学期平均が95点を越えていました。高いときは、学期平均が98点を越えたこともあります。つまり30人中27人ほどが100点。3人が80~90点といったレベルです。もちろん、その中には、去年までずっと0点だったという子どももいました。
この記事では、漢字が苦手・覚えられないという子どもが抱える原因と、そのような子どもたちに効果がある指導法をお伝えします。
漢字テストの点数が、いつも10点や20点だった子どもが、80点や90点を取ると、目の色が変わります。「自分でもできるんだ。」と意欲的に取り組み始める姿を何十人と見てきました。この記事を読んで、一人でも、自分の可能性を信じることができる子どもが増えればと思っています。
漢字が苦手・覚えられない理由
漢字が苦手・覚えられないと感じる理由は、様々ありますが、分かりやすく4つに分けて解説していきます。「感覚優位の問題」「ワーキングメモリが少ない」「思い出すのに時間がかかる」「文字が正しく見えていない」という4つの視点です。
得意なインプットの方法が合っていない?感覚優位について
「視覚優位」「聴覚優位」「身体感覚優位」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。学校教育の中でも少しずつ聞く機会が多くなってきたレベルなので、世間にはまだまだ浸透していないかもしれませんね。
これは、物事を覚えたり、認識したりするときに優位な感覚、つまり得意な感覚のことを言います。例えば、図鑑や漢字を見ただけで覚えてしまうという子どもがいます。
こういった子どもは記憶力がとてもよい場合が多いです。写真のように「パシャ」と情報を撮影し、そのまま脳に保存することができるのです。こういった子どもは、書かなくても覚えられるので、書くことを面倒臭がる傾向になります。
これは極端な例ですが、このような子どもは明らかに視覚優位、つまり目で見て覚えることが得意なタイプです。
次は聴覚優位、つまり耳・音声情報です。映画俳優のトム・クルーズをご存じでしょうか。彼は、文字の認識が弱いため、台本をいつも誰かに読んでもらい、その音声でせりふを記憶しているそうです。このように、視覚が弱い人は、視覚に頼らずに、耳で覚えようとするので、聴覚が発達します。
そして、身体感覚優位。これは体で覚えるタイプです。皆さんの周りに、考えるよりも先に動いてしまうといった子ども・大人はいませんか?こういう人は体で、つまり体験を通して覚えた方が覚えやすいという身体感覚優位タイプであることが多いです。
もちろん、どれか一つだけ持っているのではなく、3つとも持っているのですが、何が強いのか、得意なのか、という話です。ちなみに視覚・聴覚だけに絞ると、視覚優位が約8割、聴覚優位が約2割ほどに分かれます。圧倒的に目で見て覚える方が得意と感じる人が多いのです。
これは、子どもだけではなく、大人にももちろん当てはまります。筆者は身体感覚優位ですので、とにかくまず行動して、体験しながら考え、物事を進めていく方がスムーズに行きます。
このように、自分の得意な覚え方が分かっていると、勉強や仕事をより効率よく進めることができるようになるのです。
ただ、単純に何度も何度も漢字をノートに練習し続けるだけでは、視覚しか使っていないので、聴覚優位、身体感覚優位の子どもはなかなか漢字を覚えることができないのです。
ワーキングメモリが少ない
ワーキングメモリとは、人が短期的に記憶することができる情報量のことを指します。
一般的に平均が7つほどだと言われていますが、人によっては、このメモリの数が非常に少ないことがあるのです。場合によっては2つ、3つということもあり得ます。
すると、3つ漢字を覚えても、4つ目を覚えると1つ忘れしまうことになります。漢字テストは大体10問です。10種類の新出漢字やその使い方を覚えておくというのは、ワーキングメモリが少ない子どもにとっては、かなり大変な作業といえるでしょう。
思い出すのに時間がかかる
漢字テストやプリントに取り組んでいるときに、「なかなか思い出して書くことができない」という子どももいます。漢字練習にとても時間がかかってしまいますし、思い出すことにエネルギーを使うので、本人も疲れてしまいます。漢字が苦手になる気持ちもわかる気がします。
実は、「思い出すのに時間がかかる」というこの特徴もワーキングメモリに関係しています。ワーキングメモリは、単純に、一時的な記憶力のことだけを指示しているわけではありません。
エピソードバッファという、長期記憶から思い出したいものを検索して取り出す機能も、含んでいるのです。
例えば、「はらぺこあおむし」を図書館で探しているとします。見つけ出すのが早い人は、「絵本コーナーにある」「表紙は虫の絵」といった情報をもとに、ある程度の検討をつけて、効率的に探すことができます。対して、見つけ出すのが遅い人は、一冊一冊探してしまうのです。
この機能が弱い子どもは、漢字自体は8割方覚えている場合が多いです。ただ、思い出すことに人一倍集中が必要なのです。おまけに、前述したワーキングメモリが少なければ、何を思い出そうとしたかすら忘れてしまいます。
文字が正しく見えていない
これは、「一本線が多い・欠けていることがよくある。」という子どもや「そんな間違え方するかな~?」という子どもによく見られます。厳密に言うと、ぼんやりとした全体は見えているのです。ただ、横線が三本なのか四本なのかという細かい部分がブレて重ねて見えてしまったりしてしまうのです。
だから、鏡文字であったり、見たこともないような漢字をあたかも自分で作り出してしまったかのように書くことがあります。
本人は、真面目に集中して取り組んでいるのです。しかも、このようなタイプの子どもはとても努力家であることが多い。いくら努力しても努力しても、一向に上達しないのであれば、苦手意識をもってしまって当然ですよね。
ここまでは様々な漢字を覚えることができない理由を書いてきました。「本当にこのような特徴をもった子どもが漢字が覚えられるようになるの?」という疑問が浮かんでしまいますよね。
大丈夫です。絶対100点を取れるというわけではありませんが、かなりの確率で、点数アップを図ることができるはずです。次の章では、その具体的な方法を紹介します。
漢字を覚えることができる効果的な教え方
漢字を覚えるために効果的な指導は、ズバリ「指書き」と「効率の良い復習の頻度」です。+αとして「空書き」が入ります。中でも最も重要であるのが「指書き」です。これを徹底的に押さえれば、簡単に30点、40点と点数が上がります。早速、解説します。
指書き
指書きとは、鉛筆を使わず、人差し指の平を机にピタッと着けて、覚えるまで漢字を練習する活動のことを言います。特別な準備物は何もいりません。これだけで習得率がグッと上がります。ここからは、「指書きが有効である理由」と「正しい指書きの手順」も説明していきます。
指書きが有効である理由
指書きには、漢字を上手に脳にインプットできる理由が、少なくとも4つあります。それは「3つの感覚を使う」「ワーキングメモリの負荷が少ない」「指の平に最も神経が集まっている」「書き順をパターン化できる」の4つです。順々に見ていきましょう。
3つ感覚を使う
3つの感覚とは、前章で出てきた「視覚優位」「聴覚優位」「身体感覚優位」のことです。
人それぞれ、得意な覚え方が分かれるという話をしました。ドリルに練習するという方法はほとんどの場合「視覚」です。だったら、聴覚も身体感覚も使って漢字を練習してしまえばよいのです。それが「指書き」になります。
指書きをするときは、書き順を唱えながら行わせます。これによって、画数、漢字のリズムが音声情報で入ります。文字と音声を結び付けて覚えてしまうのです。これが「聴覚」を使った覚え方。
さらに、指書きをするときは、肩から指先までが自然と動きます。鉛筆を持っているだけでは、指先、大きく言っても手首より先までしか動きません。
一方で、指書きは動かす範囲が大きいので、より運動に近い動きとなります。スポーツのように練習して覚える感覚により近くなるので、「身体感覚」を使って覚えた方が良い人にとっても、有効です。
もちろん、お手本をしっかり見ながら、書いているので、「視覚」は十分に使っています。このように、より多くの感覚を使って覚えることによって、個人個人の覚えやすい感覚にヒットする確率が上がるのです。
ワーキングメモリの負荷が少ない
小学校で漢字を練習するときに先生たちが多く言う言葉は何でしょうか。それは、「丁寧に書きなさい。」です。丁寧に書くことは当然大事です。しかし、これでは、漢字を覚えることだけに集中することはできません。
漢字をなかなか覚えることができない子どもの中には、手先が不器用な子が一定数います。そのような子どもたちにとって、「丁寧に書く」というのは、とてもエネルギーと集中力がいる作業なのです。
「間違わないように書かなきゃ・・・!」「丁寧に書かなきゃやり直しだ。」そのようなことを意識しながら、鉛筆をギュッと握って漢字を書いているので、ワーキングメモリを2つも3つも既に使っていることになります。ワーキングメモリが少なければ、パンク状態に近く、とても漢字を覚えることができる状態ではないのです。
しかし、指書きは、文字の丁寧さ、きれいさを意識する必要がありません。机に書いて、どこにも跡は残らないですから。さらに、鉛筆も持たず、指先だけを机に着けるので、そこに全神経を集中できます。これらのちょっとした工夫が、脳にとってかなり易しい環境を作ることになります。
指の平に最も神経が集まっている
カナダの脳神経学者であるペンフィールドは、脳の各部分の対応領域の割合を研究し、そのマップを作りました。その脳につながる神経が割合を小人で表したものをホムンクルスと言ったりします。
ホムンクルスを見るとどこの部分が最も大きいのかがよく分かります。それは、「指」と「舌」です。
神経がたくさん集まっているということは、それだけ信号を脳に送ることができるということです。指書きは、神経が最も集まっている人差し指を使って、漢字の形をそっくりそのまま信号として脳に送ります。これが鉛筆であったのならば、鉛筆を操作する方向に指を動かすだけなので、漢字の形通りに指を動かしているとは言えません。
さらに、指書きは画数を唱えながら行います。画数を唱えるのは、「舌」を動かす必要があります。つまり、指書き一つで「指」と「舌」という、最も神経が通う部位を一度に刺激することになります。これは、かなり、脳が漢字を記憶する助けになるはずです。
書き順をパターン化できる
後ほど詳しく説明しますが、指書きを順序よく行っていくと、書き順通りに覚えるようになります。書き順は、「書き順は間違えたら恥ずかしい」から覚えるのではなく、「この先漢字を覚えることが楽になる」から必要なのです。
書き順には一定のルールがあります。例えば「王」。「王」は「横→縦→横→横」の順番です。この王を覚えているだけで、「金」「全」など様々応用できます。漢字をパーツごとに分解すると、既に習った漢字を組み合わせているものも多くあると思います。つまり、その部分の書き順は一から覚えなくてよいものになるのです。
もともと書き順は、書きやすい順番になるように決められたものです。書き順通りに覚えれば覚えるほど、学年が上がるにつれて見たことがあるパーツが増えていきます。
すると、書く順番を特に意識せず、自動的になんとなく分かるようになります。そうなれば、ワーキングメモリをより、初めて見る部分に集中的に使うことができるので、さらに覚えやすくなっていくのです。
指書きの手順
指書きの手順は以下の通りです。
- 書き順を見て机にすらすら書けるまで指書きする
- ドリル・スキルにある手本となる大きい字を見てすらすらできるまで指書きをする
- 目を閉じて、机の上に指書きをする(できていれば漢字を覚えたということ)
- 鉛筆をもってなぞり書きをする
- 鉛筆をもって写し書きをする
つまり、指書きで目閉じて書くことができるまでやってしまうということです。このときに、本当に覚えたかどうか大人がチェックしてあげると、より確実でしょう。しっかり褒めることで、「覚えることができるかもしれない。」とより意欲が出てくると思います。
学校で指定されるドリルやスキルには、なぞって書くマスと全て自分で書くマスがあると思います。それらを「なぞり書き」「写し書き」と言います。その部分は鉛筆を持ってOKです。大切なのは、鉛筆を持つ前に覚えきってしまうということです。
ただ注意点があります。「指の平ではなくて、爪で指書きをしている」「鉛筆を持ちながら指書きをしている」「目を閉じて覚えることができていないのに次に行ってしまう」というのは、指書きの効果が半減してしまうので、おススメしません。
まずは、指書きに一点集中で取り組んでみてください。
空書き
「空書き」は「そらがき」とも「からがき」とも読みます。覚えた漢字を空中に書く活動のことを言います。これは、+αのパーツです。
小学校の教室では、全員が本当に「目を閉じた指書き」をクリアしたかどうかを確認することが難しいです。人数が多いため、一人一人チェックできない問題を解消するためのパーツが「空書き」です。
全員で、一斉に空中に漢字を書いて、ピッタリ揃うかをチェックします。書き順を口に出しながら、です。最初は目を開けて、最後を目を閉じてやらせます。
これが「全員ピッタリと揃った」状態になれば、漢字は覚えていますし、書き順通りに書くことができていると確認できるのです。微妙な覚え具合であったら、やり直しをしたりします。
「空書き」は、「指書き」よりもさらに大きく体全体を使って書くことになるので、より身体感覚を使います。体を動かすことが好きな子どもに効果があります。
家庭では、「空書き」まではやる必要はないかもしれません。「指書き」で完全に覚えているなら十分です。「それでもやってみたい。」という方や「うちの子は体を動かす方が合っている。」という方は試してみてください。
効率の良い復習方法
「指書き」で漢字を覚えることがきたのならば、後はそれをいかに忘れず、テストまで覚えておくかということが鍵になってきます。そこで、忘れづらくなる復習方法を紹介します。
結論から言えば、「テストする日を含め、3日間テストと同じ問題を解く」「間違った問題だけを直す」のが効率の良い復習方法となります。
エビングハウスの忘却曲線
「エビングハウスの忘却曲線」というものをご存知でしょうか。学習した内容を「覚えている割合」と「学習後の日数」の相関関係を図に表したものです。
覚えた内容を100とすると、1日後には40、2日後には80忘れてしまいます。しかし、2日後に復習をすると、一旦100まで戻り、1週間経っても40忘れる程度にしか下がりません。さらに、1か月後に復習すると、100まで戻った後、20程度しか忘れなくなるのです。復習の頻度によって忘れる割合が減っていきます。
脳には、記憶をつかさどる海馬という部分があります。一度覚えた内容は短期記憶として保存されますが、何度も復習をすることによって、海馬に「これはよっぽど重要な内容なんだ。」と思い込ませることができるのです。
すると、海馬はその情報を長期記憶に送り込みます。長期記憶に入ったものは忘れにくくなる。だからこそ、復習が重視されるのです。
このことを頭に入れながら、復習をする頻度を決めると良いと思います。漢字テストは大体1週間に1枚のペースで行う場合が多いと思います。5日間でテストという1クールで効率的な復習スケジュールを考えてみます。
- 1日目・・・テスト範囲の新出漢字を半分覚える
- 2日目・・・テスト範囲の残りの新出漢字を覚える+1日目に覚えた漢字を指書きで確認
- 3日目・・・テストと同じ問題を解く(最初は写して書く→漢字を隠して書く)
- 4日目・・・テストと同じ形式で解く→直しを行う
- 5日目(テスト当日)・・・テスト直前、もしくは朝にテストと同じ形式で解く→直しを行う
学校の漢字テストを行う頻度や使っている教材によって、調整は必要ですが、大きく言えばこのような流れになります。
これだけの頻度で復習をすると、忘れる割合が最初に比べ、かなり少なくなっています。特に、テスト当日の直前、もしくは朝に復習をすることは相当効果があります。
そして重要なのは、きちんと丸付けをし、間違いを直すことです。次に、効率的な間違い直しの方法を説明します。
間違った問題だけを直す
直しをするときに重要なのは、間違った問題のみを直すということです。よく、1~2問間違えると、また10問やり直して解くという方法を見かけます。それはそれで効果はあるのですが、漢字が苦手な子どもにとって、それは苦痛です。
間違った問題があれば、その漢字だけを直します。ただ、答えを写すだけでは不十分です。指書きをして、見ないで書けるようになってから、正しい答えを書くのです。これを繰り返していけば、確実に正しい答えが根強くインプットされていくことになります。
この章では、「漢字を効果的に教える方法」を伝えてきました。この章の内容を実践すれば、漢字テストで50点未満だった子どもは、かなりの確率で点数が上がるはずです。ポイントさえ守っていれば即効性がある指導法なので、すぐに結果が出るはずです。
ただ、この指導法でも、効果がなかった場合はどうするのか。次の章でお伝えします。
効果のある漢字学習アイディア
ここから紹介するのは、子どもの発達の凸凹に合わせた指導法です。全ての子どもに効果のある指導法ではなく、子どもの特性によって合っている・合っていないが分かれます。子どもの状態を観察しながら、色々試してみることをおススメします。
赤鉛筆で一部分を書く
「漢字が苦手・覚えられない理由」という章で、「覚えているはずなのだけれど、長期記憶から、なかなか適切な漢字を選び出すことに時間が掛かってしまう」子どものことを説明しました。そのような思い出すことに困り感をもっている子どもへの支援方法です。
子どもによっては、部首だけこちらが書いておけば、後は全て思い出せるという場合があります。程度は一人一人によって違いますが、漢字の一部分を見ると、長期記憶から検索しやすくなるのか、パッと浮かんでくるようです。
このとき、黒鉛筆で大人が一部分を書くことはおススメしません。赤鉛筆をおススメします。しかも、薄く、です。
赤鉛筆で一部分を書くと、その上をなぞることができます。さらに、薄く引いた線の上を黒でなぞるのですから、跡が残りにくい。結果的に、自分でほとんど書くことができたという自信をもたせることができます。
ただ、テスト本番直前まで赤鉛筆で支援していたのに、本番にいきなりノーヒントでは、自信をもって取り組むことができないかもしれません。そのため、徐々にサポートの割合を減らしていく必要があります。
1回目のテスト形式の練習は、「部首+つくりの一部」。2回目は「部首のみ」。3回目は「一画目or二画目のみ」。という具合に、子どもの負荷を少しずつ上げていくのです。
一画目、二画目でもできる状態ならば、一度サポートなしで、全て自分で取り組ませてもよいかもしれません。そこまで準備が整えば、本番はかなり自信をもって臨むことができるでしょう。
文字を大きく書く
これは、「漢字の線が、一本多かったり少なかったりする子ども」や「手先が不器用な子ども」に効果的です。
漢字がブレたり、重なったりして正しく見ることができない特性をもっているかもしれない子どもには、シンプルな支援も有効です。手本となる字、ノートに書く字も大きくしてしまえばよいのです。
皆さんも、もし、視力検査の2.0サイズの文字が埋め尽くされた文章を一字一句読まなければならないとしたら疲れてしまうし、間違えて読んでしまうと思います。ですので、文字を大きくしてあげるだけで、大分文字を認識するのが楽になるのです。
また、「微細運動障害」という手先が不器用に動かすことが不得手であるという特性もあります。そして、この障害は「学習障害(LD)」「発達性読み書き障害(ディスレクシア)」と併せもっているパターンが結構あります。
そこまでの症状ではなくても、手先が不器用な子どもは、鉛筆を正しく持ち、きれいに文字を書くことに多くのエネルギーと意識を使ってしまいます。
その場合は、ホワイトボードに書くことでも十分です。ホワイトボードは筆圧関係なく、力を入れずに書くことができます。おまけにすぐに消せることもメリットです。
ホワイトボートに練習して、書き順通りに消すという方法で強くインプットできる子どももいるので、「うちの子の状態に似ている」と思ったら、試してみてください。
唱えて覚える「口唱法」
聴覚優位、耳で聞いて覚えることが得意な子どもに有効な場合がある支援方法です。「指書き」のときの画数を唱えるだけでは、カバー仕切れない子どももいるので、より具体的に漢字の形をイメージできる音声情報が必要になります。
例えば「題」という漢字を覚えるときの唱え方は「日(ひ)、一(いち)、たて、よこ、人(ひと)をかき、右におおきく一(いち)ノ(の)目(め)八(は)」となります。
リズム良く、既に知っている漢字のパーツも入れながら言うことがポイントです。これは、漢字のどの部分かと唱え方をリンクさせる必要があるので、本に載っているイラストを見ながら覚えると効果的です。
「下村式 となえておぼえる漢字の本 小学〇年生」(偕成社)のような、専門書が出ているので、そのような本をあたってみるとよいと思います。
漢字パズル/漢字アート
漢字パズルは、一つの漢字を四つのパーツに分けて、それを組み合わせるという支援方法です。新出漢字の度に新しく一から覚えるのではなく、自分が見知ったパーツを使って組み合わせると、新出漢字になるという感覚を作業を通して分からせることができます。
繰り返し支援していくうちに、そのような思考の癖が付き、自分で漢字を解体して覚えるようになっていきます。
漢字アートは、毛糸などのひもで新出漢字を作るという支援方法です。毛糸を使って漢字を作るのですから、工作みたいですよね。つまり、体を使って、身体感覚で覚えることができます。
また、線と線の重なりを認識することが苦手な子どもは、ひもを重ねて漢字を作ることで、線の重なりを体験することができます。
親の寄り添う姿勢が何よりも大事
「漢字を覚えることが得意になる」ことは大切です。覚えられないよりも、覚えることができた方がよいに決まっています。しかし、親が強制的に、子どもを叱りながら勉強させても、例え学力が上がったとしても、心に大きなマイナスの負担をかけてしまいます。
そこで、どのような姿勢で子どもに寄り添えばよいのかを具体的に書いていきます。
本人の意思を確認する
まずは、何よりも本人の気持ちが大事です。漢字が苦手であるならば、「今は大体これぐらいの点数だよね。」と現状を確認してあげてください。
そして、「でも、あなたががんばっていることはすごく伝わっているし、お母さん(お父さん)もよく努力していると思う。もしかしたら、漢字を練習する方法が合っていなかっただけかもしれないから、点数が上がりやすい方法を試してみない?大体30~40点上がることもあるんだってよ。」と本人の気持ちに寄り添いながら、提案をしてあげてください。
本人にやる気があるのならば、間違いなく「やる。」と言います。
やると決めた後も、「あなたがやると言ったことを大切にしたいから協力するね。でも、これは100%上手くいくという方法ではないから、もし上手くいかなくてもがっかりしないでね。そのときは、別の合う方法を探せばいいだけだから。結果がどうであろうと、あなたのことを大切に思う気持ちは変わらないよ。」のように、上手くいかない場合があることと、勉強面の成果と本人の人格を分けて伝えることが大切です。
「勉強ができる=よい子」のような刷り込みをしていると、結果が出なかったとき、本人の自己肯定感を傷つけてしまう恐れがあります。
逆に、「やらない。」という返事が返ってきた場合は、その思いも尊重しましょう。素直に「やる」と言えない何かがあるのだと思います。
その場合は、「分かった。あなたがそう言うのならきっと何か理由があるんだね。もしやりたくなったり、困ったことがあったら言ってね。味方になるからね。」と伝えてあげてください。
本人を妨げている何かがなくなったときや、「やりたい」と思えるエネルギーがたまったときに、声をかけてくると思います。
少しの進歩を褒める
子どもにとって、親の励まし、褒め言葉ほどエネルギーになるものはありません。だからこそ、少しの進歩を見つけ、褒め、認めてあげてください。
「10点上がったね!あなたが自分でがんばったからだよ。」「昨日と変わらず50点でも5問はもう確実に覚えているってことじゃん!ここから、2個覚えただけで70点だよ。すごい進歩だと思う。」などと温かい声掛けをしてあげることが大切です。
そうやって、上から押し付ける形という上下関係で子どもに接するのではなく、一緒の方向を向いて寄り添うという形で接するのです。信頼する大人が寄り添ってくれることは、協力なサポーターを得た気分になるでしょう。
そして、上手くいったときは、一緒に喜んであげてください。
結果ではなく過程に焦点を当てる
もし、目標としている結果が出たとしても、「100点だね!すごい!」と点数に焦点を当てて褒めることはおススメしません。それでは、「100点でなければ認めてもらえない。」という裏の意図を伝えてしまうことになります。
よい結果が出ても、「100点だね!点数もいいけれど、あなたが自分で決めた目標に向かって、自分の力で努力したその姿が何よりもうれしかったよ。困ったときは、また、相談してね。お母さん(お父さん)も一緒に考えるからね。」と努力した過程を褒めることが大切です。
これならば、人格を否定されることもなく、信頼関係を深めることができます。そして、努力しても上手くいかなかったときは、相談をしてくれる関係をつくることができると思います。
まとめ
漢字テストの効果的な指導法をまとめます。
- 「指書き」+「復習の頻度」
- 「赤鉛筆で薄く書く」「文字を大きく書く」「唱えて覚える」「漢字パズル/漢字アート」
「指書き」+「復習の頻度」セット。これのヒット率が8割~9割。
残りの1割~2割は、「赤鉛筆で薄く書く」「文字を大きく書く」「唱えて覚える」「漢字パズル/漢字アート」などの方法を試し、本人に合った学習法を探していくことが大切です。
そして、漢字を得意にさせて自信をもってほしいという思いがあるのならば、寄り添い、励まし、共に喜んであげてください。過程に焦点を当てて、「自分は努力して自力で解決していける人間だ。」と自信をつけさせてください。
さらに、「指書き」+「復習の頻度」を中心とする漢字指導法の本当の価値は、長期的に取り組むことで身体に染み込むということです。完全に漢字の習得法を覚えると、勝手に自分で活用するようになります。そうなれば大人を必要としない自立した力ですから、間違いなく、本人の力となっています。
何度も何度も同じ方法を刷り込むので、脳の中の神経回路が太く、強力になり、強く意識しないでも漢字が覚えやすくなります。
筆者が教師をやっていたときも、5~6か月ほど続けると、覚える速度が速くなったり、70~80点の状態をキープしていた子どもが急に100点を連発する状態になったりしていました。
ですので、読者の皆さんも、諦めず、方法を一緒に模索してあげてほしいと思います。漢字を覚えることができるという実感は大きな自信になります。少しでも多く、「自分の可能性を信じることができる」実感をもたせてあげてほしいと思います。
実践して上手くいったこと、上手くいかずに困っている声もぜひ、お寄せください。
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