「先生、家で漢字を調べてきました!」「家で漢字クイズを作ったので解いてみてください!」
教員時代、子どもたちは漢字に興味をもち、進んで調べてきていました。漢字を覚えることが得意な子ども、漢字に苦手意識をもっている子ども、両方ともです。
漢字を覚えることが苦手な子どもは、漢字に対してアレルギーをもっていることがあります。
そんなときは、その子どもに合った漢字の覚え方を教えると同時に、「漢字って面白い!」と思えるような授業を行っていました。
漢字に対して拒否反応を示す子どもでも、「面白いかも?」と心を開くことになれば、より効果がある漢字の覚え方も入りやすくなります。
漢字が得意な子どもは、自分で知的な発見を見つけるようになり、探求心、好奇心も高まります。
この記事では、小学校教師を10年勤めた筆者が、「漢字に興味を抱かせる」ことを目的とした、面白漢字を紹介します。
きっと、お子さんの漢字に対する考え方が変わるはずです。
画数の多い漢字
漢字には「常用漢字」と言われる「一般社会において現代の国語を書き表す場合の漢字」が決められています。その数、2136字です。
しかし、漢字はそれが全てではありません。元々漢字は中国から伝わってきたもの。その過程で変化してきた漢字なども様々合わせ、合計で5万字あると言われています。(諸説あります。)
そのことを踏まえて、漢字の画数に関する授業を行ったことがあります。授業は提示する順番が大切です。ご家庭でも使えるように授業形式で記載していきます。
画数が一画の漢字は何がありますか。
答えは「一」、「乙」です。この時点で筆者はなんだかわくわくしてしまいます。
では二画の漢字は何がありますか。
これは「二」「九」「十」「八」「七」「丁」など様々あるでしょう。誰でも答えられる簡単なスモールステップから始めることが、後半の面白さを引き立てます。
では小学校で習う漢字で最も画数が多いのは何画でしょうか。
子どもの年齢によって、正解の漢字を表示してしまいます。その上で画数を自分たちで数えてもらうのです。正解は「護」「競」「議」の20画。
日本で生活する上で必要な常用漢字は2136字あります。しかし、漢字はもともと中国から伝わってきたものです。常用漢字以外を含めると、何字ぐらいあると思いますか。
授業では何人か指名し、正解を示します。「5万字」と提示されると「えーっ!」という声が上がります。さて、ここからが本題です。
5万字の漢字の中で20画より画数の多い漢字はあると思いますか。
子どもたちは「ある」と答えます。
何画だと思いますか。
口々に予想が出ます。ここで漢字のみを提示。漢字を見せただけで「え~!」という声があがります。そして実際に数えさせるのです。
正解は52画。「ホウ・ビョウ」という読みの漢字です。そして問いかけます。
これよりも画数が多い漢字はあると思いますか。ないと思いますか。
当然「ある!」という答えが返ってきます。そこで漢字を提示。
提示しただけで、子どもは勝手に画数を数え始めるでしょう。これは「テツ・テチ」という読みの漢字で64画になります。
そして、最後。再び「これよりも画数の多い漢字はあるか」と聞いた上で「これが最後です。」と言って提示します。
「オトド」という読みの84画の漢字です。
漢字は長い歴史の中で、より簡単に分かりやすく使うことができるように、段々と簡略化されていきました。このような漢字も、段々と簡単なものに変わっていったのです。
上記以外にも、画数が多い漢字や変わった漢字はまだまだたくさんあります。ただ、信憑性があるものかどうかは、検証する必要があるものもありますが。興味がある人は自分で、もしくはお子さんと一緒に調べてみてください。
授業であったら、このような形で締めます。自分でも調べてみたいという気持ちを育てていくことが、教育や子育てにおいて、とても大切なことだと思っています。
自分から調べるという行動は、大きな意味をもたらすことでしょう。
異体字
次は異体字。これも中国から日本に漢字が入って来る際に、簡略化されたり、カスタマイズされたりしたものの原型であったりする漢字です。
見た目は見たことがあるような漢字の組み合わせでも、意味や使われ方は全く違う場合があります。それが面白さにつながります。授業形式で書いていきます。
これは何と読みますか。
そう問いながら、「山」と「田」を一つずつ提示していきます。
二つ合わせて?
「やまだ」ですね。ここまでは誰もができる問題です。まずは誰もができるものから始めて、思考のレールに乗せることが大切です。
では次の漢字は何と読むでしょうか。
一見「山田」を縦にしただけの漢字です。何人かに答えさせます。そこで正解を提示。答えは「ホウ」です。ロシア連邦の「邦」と同じ意味を表しています。
これは何と読むでしょうか。
2問目に提示するのは、「山本」です。読みはもちろん「やまもと」。同じパターンですね。次で変化させます。
ではこれはどのような意味だと思いますか。
「山本」が縦に2つ連なっています。今回聞いているのは意味です。授業では、「山本さんが2人」などの意見がよく出て笑いが起こります。
正解は「ささえる」という意味です。「支」と同じ意味を表しています。このように元々は同じ漢字であったのに、中国から伝わる中で、姿・形を変えてしまった漢字を異体字と言います。
ここから様々な異体字を紹介していきます。
この漢字はどのような意味ですか。
「死」という漢字を提示。当然意味は「しぬ」ということです。
では次の漢字はどのような意味でしょうか。
「死」+「次」ですから、「天国に行く」「地獄に行く」「復活する」などの様々な意見が出ます。正解は「よみがえる」。当たっている意見があると「おー!」という声があがり、盛り上がります。このように次々と異体字を提示して自由に答えさせていくのです。
例えば「門が2つ」で「褒める」、「必」+「見」で「隠す」といった異体字を紹介します。ここまでは、意味に注目してきましたが、ここから観点を変えていきます。
「山」には2つ読み方があります。「やま」と「サン」という読み方です。「やま」という平仮名で表記される読みを何を言いますか。
高学年であれば既習事項かもしれませんが、習っていなければ「訓読み」という概念を教えます。
常用漢字の中で、最も長い訓読みは何という漢字でしょうか。
これも様々意見を出させていきます。正解は「志」と「承」の2つ。「こころざし」「うけたまわ(る)」なので、5文字の訓読みです。ここから異体字に戻っていきます。
では、異体字を含めた漢字を全て含めると5文字より長い訓読みはあると思いますか。
子どもたちは「ある!」と答えます。
では、異体字を含めた漢字を全て含めると5文字より長い訓読みはあると思いますか。
予想を立てさせたり、意見を発表させたりして、答えを知りたい状態にして提示します。
12文字です。この漢字。どのような読み方だと思いますか。
これは絶対に当たらないので、「面白い!」などと言いながら笑って楽しく進行していきます。最初の一文字をヒントにしたり、意味が近づいてきたら「少し近づいた」などと言ったりしてもいいでしょう。
答えは「あるきかたがただしくない」。どこで使うんだと突っ込んでしまいたくなる読み方ですよね。
この調子であと2問続けてます。再び何文字かを予想させて提示。そして読み方を答えさせていきます。
次は13文字で「ほねとかわとがはなれるおと」という何とも恐ろしい読みをもつ漢字です。
そして最後の一文字に入ります。同じように予想を立てさせますが、12文字、13文字と来ているので、14、15文字あたりの予想を立てる子どもが多くなります。しかし、ここで一気に突き放します。
33文字の「門+人」という漢字です。画数を提示しただけで「え~!!」という声が上がります。そして意味を楽しく聞いていくのです。33文字の読みなのですから、当たるはずがありません。それが分かっているので、子どもたちも楽しく想像して答えることができます。
正解は「ものかけがらきゅうにとびだしてひとをおどろかせるときにはっするこえ」です。「なんじゃそりゃ」といった感じですよね。
これで終わりだと告げると、「先生メモしていいですか!?」などという子どもが出てきます。漢字に興味をもち始めている証拠ですよね。
このような、別角度からの漢字の勉強を幾つか積み重ねていくと、「漢字って面白いな。」という気持ちが芽生えてきます。それが普段の学習意欲につながる可能性があるのです。
漢字の成り立ち
漢字の成り立ちの面白問題は、いくつもあるのですが、膨大な量になってしまうので一つだけ紹介します。
最もシンプルで、誰もが取っかかりやすい「数字」に関する漢字の問題です。
木の枝が一本あります。(横向き)これは何の漢字でしょう。
形からして「一」だと予想できます。ここは誰もが正解。
今度は木の枝が二本になりました。(横向き)何の漢字だと思いますか。
正解は「二」。子どもたちも正解します。これで、何となく次に出てくる問題も数字に関するものだと予想がついてくるでしょう。
今度は木の枝十本を束にして縛りました。(縦向き)何の漢字だと思いますか。
「十本」と言ってしまっているので、大方答えは分かります。「十」の縦棒が木の枝の束を表し、横棒が縛る紐を表しているのです。(諸説あり)ここまでの問題は、子どもの集中や興味を「参加モード」にもっていくためのスモールステップです。次からいよいよギアを上げていきます。
では、今度は難しいですよ~。分かったらすごい。「百」という漢字。上の横線は木の枝を表しています。では、下の「白」は何を表しているでしょうか。これは多分一人も正解者は出ないんじゃないかな~
授業では、少し挑戦心をくすぐるような言葉がけをして、緊張しながらも、どんどん挑戦する雰囲気を作り出します。
正解ではなくても、「なるほど!面白い!40点。」などと点数を付けると、次々と意見が出てきます。
直観で正解に近いものに点数をつけるのです。時々「降参ですか?参りましたか?」などと言うと盛り上がりを見せます。
しばらくして、「ひらがな4文字」とか「『ど』で始まります。」とか「木の実です。」などとヒントを与えていきます。すると正解が出てきます。
正解は「どんぐり」です。どんぐりの中身である実は白いことから、木の枝にぶら下がったどんぐりを百というように表しています。(諸説あり)
ここまでで、筆者は十分に「面白いな~」と感じてしまいますが、最後にもう一問、数字に関する問題を出して、畳みかけます。
では、最終問題です。「十」という漢字が三つ並んでいます。(十 十 十)これは何の漢字を表しているでしょうか。
教室ではノートに書いて持ってこさせます。これは激ムズですので、次々と「違います」が続出します。
するとなぜか、笑いが起きたり、もっと挑戦したくなる雰囲気になったりするのです。
「間違えるのが当たり前」という空気が、自信がなくても挑戦してみようという明るさになるのでしょう。制限時間内に答えが出なければ、筆者は答えを教えず、「自分で調べてみてください。」と言って終わります。
その方が、「疑問に思ったことは何でも自分で調べる」好奇心・追求心旺盛な人間に育っていくからです。
ちなみに答えは「世」です。「世」の中には、「十」が横に三つ隠れています。そして、「世」は世代のことを表します。中国では三十年を一つの世代の節目としていたという説があるのです。だから、「十」が三つ並んでいるのでしょう。(諸説あり)
まとめ
ここで紹介したのは、ほんの一部です。
漢字は深淵です。調べれば調べるほど面白く、一つ一つのなりたちにも全て意味があることが分かります。漢字を覚えることが苦手な子どもも、「なりたち」のようなエピソード記憶だと覚えることができたりするのです。
ほんのちょっとのきっかけだったとしても、「漢字って面白い」という漢字への抵抗感を少なくすることが、心理的な負担を軽減するためには非常に大切です。
是非、お子さんに様々な漢字の面白さを伝え、親子で一緒に調べてみてください。きっと、漢字に関する捉え方が変わってくると思います。
まだまだ面白漢字はたくさんあるので、またどこかで紹介できたらと思います。
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